世界中で食べられているチョコレート。その人気は年々高まっており、Research and Marketsによれば、2023年に1810億ドルを記録したチョコレートの世界市場は、2028年に2280億ドルまで成長する予測です。
しかし、そんなチョコレート人気の拡大とは裏腹に、チョコレート生産による環境負荷や、気候変動によるカカオの減少、児童労働問題など、さまざまな問題がいまだに残っています。そこで森林破壊や児童労働を伴わない新たなチョコレートとして、「代替チョコレート」の開発が世界中で加速中です。
今回紹介する「California Cultured, Inc.」(以下、California Cultured)はそんなフードテックスタートアップの1社であり、カカオ豆の細胞培養によってチョコレートを生産する技術を開発しています。
明治ホールディングスから出資を受けるなど、日本での活躍も期待される同社。この記事ではチョコレート生産に革命を起こすCalifornia Culturedについて紹介していきます。
事業内容:カカオの細胞培養でチョコレートを製造
California Culturedの事業内容は、カカオの細胞から直接カカオ粉末やチョコレート、カカオバターを生産する技術の開発です。同社のプロセスは植物細胞培養と呼ばれるもので、「細胞の培養から収穫までわずか3,4日間」と、短期間での生産を可能にする特徴を持ちます。
具体的には、まず香りや味が優れたカカオの品種を選択し、数個の細胞を採取。カカオが育つ熱帯雨林の状態を正確に模倣したバイオリアクターの中で、細胞を成長・増殖させます。3,4日後にカカオ豆をタンクから収穫し、発酵・焙煎工程を施すと、チョコレートのもとになる「カカオニブ」ができあがるそう。
California Culturedによると、培養肉などの工場生産で一般に使用される足場は不要で、培地や設備投資のコストを大幅に抑えられます。また培養に使用するバイオリアクターは、精密発酵技術と比べて安価であるため、同社が開発するチョコレートは一般的に店頭に並んでいるものと同じ価格に抑えられるとのこと。
さらにCalifornia Culturedは味にも自信を示しており、「細胞培養こそがチョコレートやコーヒーに含まれる1500以上の不可欠なフレーバー分子を再現する唯一の方法だ」と述べています。なお最近はコーヒー豆の細胞培養にも取り組んでいるそうです。
資金調達:明治HDから2度の出資
2024年2月に明治ホールディングスはCalifornia Culturedへ追加出資を行なったと発表しており、2021年11月に続き2回目の出資となるそう。
明治はCalifornia Culturedとの協業を通じ、カカオ細胞の培養技術を確立し、持続可能なカカオバリューチェーンの構築を目指しています。海外メディアGreen queenの報道によると、2社の提携は10年にわたるそう。California Culturedは培養カカオ粉末を明治HDに提供し、アメリカ・日本市場向けのチョコレートなど、菓子・ウェルネス製品に使用する予定です。
またCalifornia CulturedはすでにアメリカのGRAS認証に向けたプロセスを進めており、今年後半に心疾患の軽減に良いとされるカカオフラバノール粉末の上市を目指しています。
明治HDは、健康意識の高い層をターゲットとした「チョコレート効果」シリーズで多くの製品を展開しており、2023年にはカカオフラバノール含有量を高めた新製品を発売。California Culturedが販売認可を取得すれば、こうした明治の製品に培養カカオが原料として使用される可能性があります。
市場規模:2032年にチョコレートの世界市場は1600億ドルへ
Global Market Insightsによると、チョコレートの世界市場は2023年に1200億ドルを記録し、2032年には1618億ドルまで成長すると予測しています。
「美味しいチョコレートを食べたい」というニーズは常に存在する一方で、コロナなどの影響から「健康に気を配りながら食べたい」と、健康価値の高いハイカカオチョコレートの人気が高まっているそう。
市場トレンド:課題の多い従来の生産から代替チョコレートへ
California Culturedが細胞培養によるチョコレートの生産を推し進める理由として、チョコレート生産における環境負荷の大きさ、気候変動によるカカオの減少、児童労働問題があげられます。
実はチョコレートは食品の中で牛肉・羊肉などに続き、5番目に温室効果ガスを排出しており、環境負荷が非常に大きいです。またカカオは気温上昇や降水量の減少など、気候変動の影響を受けやすいため、2050年までにカカオの木が1/3消滅すると予想されています。
加えてチョコレートの過剰な人気から、カカオ生産のための森林破壊が加速しています。このように生産国に負担がかかっているにも関わらず、世界のカカオの約70%を供給するコートジボワール・ガーナでは、カカオ農家の収入は1日1ドル未満であり、非常に低い賃金による児童労働も行われているのが実情です。
こうした課題に対して、生産工場の中でカカオを開発できれば、、干ばつや大雨など予測不可能な天候に影響を受けずにカカオを供給することができます。またチョコレートメーカーは、児童労働問題を伴わない、安定した持続可能なバリューチェーンを構築することができるでしょう。
そこで多くのスタートアップが、代替チョコレートの生産に乗り出しています。たとえばアメリカのVoyage Foodsは、ブドウの種などのアップサイクル原料を使って、チョコレート・コーヒー・ピーナッツバターを生産。ドイツのQOAは精密発酵によってカカオ豆を使わないチョコレートを開発しています。
今後チョコレート市場の拡大とともに、森林破壊や児童労働といった課題の解決が進むことに期待しましょう。
企業概要
- 企業名:California Cultured, Inc.
- 代表者:CEO Alan Perlstein
- 設立:2020年
- 所在地: アメリカ合衆国カリフォルニア州デービス
- 公式HP:https://www.cacultured.com/
まとめ
本記事では、カカオの細胞から直接カカオ粉末やチョコレートを生産するCalifornia Cultured, Inc.について紹介しました。
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