世界的なクラフトジンブームが徐々に日本にも広がっています。2016年には、日本初のジン専門蒸留所「京都蒸留所」が誕生。その後、各地の酒造メーカーや大手メーカーが次々と参入し、全国に大小さまざまなジン蒸留所がオープンしました。
最近では、日本ならではのボタニカル素材を使った個性的な「ジャパニーズジン」が多く誕生しています。これらのジンは和食との相性が良く、世界中から注目を集めているそう。
さらに、クラフトジンを楽しめる専門店の増加や、サントリーの「翠ジン」といった大衆向け商品の登場など、ジンは一般的な飲み物として高い人気を得たといえます。
そんな中、注目を集めているスタートアップが「エシカル・スピリッツ株式会社」(以下、エシカル・スピリッツ)です。同社は「循環経済を実現する蒸留プラットフォーム」を目指し、廃棄素材を活用したクラフトジンの生産に取り組んでいます。
サントリーからの出資を受けるなど、注目度の高いエシカル・スピリッツについて詳しく紹介していきます。
事業内容:酒粕などの未活用素材を生かしたエシカルジンの生産
エシカル・スピリッツの事業内容は、捨てられるはずだった酒粕などの未活用素材を使用した、エシカルジンの生産・販売です。
そもそも「エシカル」とは「倫理的」という意味で、簡単に言えば「環境や社会、人に配慮した活動」を指します。エシカル・スピリッツは「“Starring the hidden gem.”(隠れた才能をステージへ)」というメッセージを掲げており、酒粕や飲み頃を過ぎたビール、カカオの皮、コーヒーの出し殻など、あらゆる未活用素材をジンに活用しているのが最大の特徴です。
また、同社の魅力は味にもあります。酒粕を使った代表製品「LAST」は、世界最高峰の品評会「IWSC2021」で最高金賞を受賞し、世界のトップ9作品に日本勢として唯一選ばれました。香りや味わいの品質の高さが世界的に評価されています。
実際に、これまで「LAST」の蒸留に使用された酒粕は、2023年12月時点で累計21トンを突破。このジンは、バーや飲食店だけでなく、有名百貨店やホテル、スーパーチェーンなど、全国1000店舗以上で取り扱われています。
クラフトジンを楽しめる「東京リバーサイド蒸留所」
エシカル・スピリッツが2021年に設立した、東京で3つ目の都市型蒸留所が「東京リバーサイド蒸溜所」です。1Fにオフィシャルストア、2Fに料理と合わせてジンを楽しめるBar &Diningが併設されており、ジンをその場で楽しむことができます。
料理と合わせてジンを楽しめるBar &Dining「Stage」(引用:エシカル・スピリッツ公式HP)
また、「東京リバーサイド蒸溜所」限定で販売されているジンもあり、それが「Distiller’s CUT vol.1 chiritumo」です。シンプルで爽やかなレモンを感じられるそうで、ジンを初めて飲まれる方にも馴染みやすい味わいとのこと。
お土産はもちろん、蔵前散策のお供にテイクアウトドリンクとして楽しむのがおすすめです。
シンプルで爽やかなレモン感じる一杯「Distiller’s CUT vol.1 chiritumo」(引用:PR Times)
資金調達:2024年9月にサントリーなどから3.8億円を獲得
引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000086.000054781.html
エシカル・スピリッツは2024年9月17日、サントリーホールディングス株式会社からの第三者割当増資、Siiibo証券株式会社による少人数私募社債の発行、さらに三井住友銀行と日本政策金融公庫からの融資を受け、合計3.8億円の資金を調達したと発表しました。
この資金をもとに、2025年春から本格稼働する「つくばねグリーンヒル蒸溜所」にて、エシカルジンの生産拡大や、世界初となる“木の酒”を製品化する「WoodSpirits」プロジェクトの開発が進められます。これにより、未利用資源を活用したスピリッツの、国内外での展開を加速させる計画です。
新蒸留所「つくばねグリーンヒル蒸溜所」で生産強化
引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000086.000054781.html
エシカル・スピリッツは今回の資金調達により、2025年春に新蒸留所「つくばねグリーンヒル蒸溜所」の運用を開始します。この蒸留所では、酒粕を直接蒸留できる設備を導入し、全国の酒蔵から集めた酒粕をより多く取り扱えるようにするそうです。
さらに生産能力を7倍に拡大し、2030年度には昨年度の60倍となる年間314トンの酒粕をジンに蒸留することを目指しています。これにより、エシカルジン市場のさらなる拡大を図るとのこと。
また、「つくばねグリーンヒル蒸溜所」では国際的な衛生基準である「ISO22000」の取得を目指し、国内市場にとどまらず、海外市場への展開も進めていくと発表されています。
2025年夏に製造を開始する世界初の”木の酒”「WoodSpirits」
引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000086.000054781.html
「WoodSpirits」は、エシカル・スピリッツとBar BenFiddichのオーナー鹿山博康氏が共同で立ち上げたプロジェクトです。このプロジェクトでは、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所との共同研究契約および特許実施許諾契約を締結し、世界初の”木の酒”を民間事業者として製品化・販売することを目指しています。プロジェクトは2021年6月に始動し、昨年10月には初めて一般向けの試飲会が開催されました。
エシカル・スピリッツは、「WoodSpirits」を通じて、年間約970万トン発生しているとされる未利用の林地材を酒類の原料として活用し、高単価での取引を実現することで、国内の林業の活性化に貢献したいと考えています。
現在、2025年夏の販売開始に向けたロードマップの更新が進められており、導入機材の発注や、2025年9月に開催される大阪・関西万博に向けた準備も行われています。
市場トレンド:ジンの出荷量が5年で3.9倍に
日本洋酒酒造組合の調査によると、蒸留酒ジンの2023年国内出荷量は前年比13.4%増の498万リットルとなり、5年前の2018年(127万リットル)と比べて約3.9倍に成長しました。また、サントリーの推計では、ジンの国内市場は2022年に前年比2.3倍の200億円に達したとされています。
このようなジン需要の拡大を受け、サントリーは「2024年『サントリージン』戦略」を発表。スピリッツやリキュールの生産能力を強化し、品質向上を目指して、2025年までに55億円の設備投資を行う計画です。また、2030年までに国内ジン市場を2倍の450億円規模に拡大する目標も掲げています。
エシカル・スピリッツは、サントリーとパートナーシップを結んでおり、協力関係でありながらも強力なライバルです。両社が競い合うことで、ジンの新たな可能性がさらに広がることが期待されます。
企業概要
- 企業名:エシカル・スピリッツ株式会社(The Ethical Spirits)
- 代表者:取締役会長/山本 祐也、代表取締役CEO/小野 力
- 設立:2020年2月7日
- 所在地: 〒111-0051 東京都台東区蔵前3丁目9−3 臼井ビル 4F
- 公式HP:https://ethicalspirits.jp/
まとめ
本記事では、捨てられるはずだった酒粕などの未活用素材を使用した、エシカルジンの生産・販売を行うエシカル・スピリッツ株式会社について紹介しました。
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