
今回ご紹介するのは、半導体メモリ分野において世界的な存在感を誇る「キオクシアホールディングス株式会社」(以下、キオクシアホールディングス)です。
同社は2024年12月18日、ついに東証プライム市場への上場を果たしました。このニュースは国内外の多くの投資家から大きな注目を集めています。キオクシアホールディングスは、世界のフラッシュメモリ需要の約3分の1を支えていると推定されており、私たちの生活や産業基盤において欠かせない重要な役割を担っています。
その一方で、キオクシアホールディングスの歩みは決して平坦ではありませんでした。同社は過去に2度の上場延期を経験するなど、試練に直面しながらも成長を続けてきました。
この記事では、キオクシアホールディングスの事業内容や、これまでの資金調達動向をくわしく紹介していきます。同社の背景を知ることで、2024年の上場がどのような意味を持つのかを一緒に考えてみましょう。
事業内容:世界最大級のフラッシュメモリ製造

キオクシアグループは、メモリや関連製品の研究開発や製造、販売を行う、世界最大級のフラッシュメモリ専業企業です。その製品は、私たちの生活に欠かせない多くの場面で使用され、デジタル社会の進展を支えています。
実際に、2024年3月期のグループ全体の売上は1兆766億円にのぼり、従業員数も約15200人を記録。また、世界10カ国に拠点を設けており、国内外の拠点と連携することで技術開発力と生産力を強化しています。
フラッシュメモリとは
フラッシュメモリは、データの読み書きが可能な記憶媒体の一種です。
「不揮発性メモリ」に分類され、「電源を切ってもデータが消えない」という特長を持っています。その名前は、データの消去が瞬時に行える特性から、カメラのフラッシュをイメージして名付けられました。
身近な例としては、USBメモリやSDカードなどに活用されています。
キオクシアの技術革新
1987年、キオクシアはNAND型フラッシュメモリを発明しました。以降、微細化技術を磨き、高密度化を実現し続けています。
さらに2007年には、他社に先駆けて3次元積層構造を発表。この技術を活かした3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」を製造し、フラッシュメモリの大容量化を成功させ、電子機器の進化や情報社会の発展に貢献してきました。

実際に、キオクシアは、以下の2つの主要工場で世界のフラッシュメモリ需要の約3分の1を生産しています。
- 四日市工場(三重県四日市市)
- 世界最大級のフラッシュメモリ工場であり、AIを活用したスマートファクトリーとして高い生産効率を誇ります。敷地面積69.4万㎡に6つの製造棟を備え、技術開発部門とも緊密に連携しながら世界最先端のフラッシュメモリを生産しています。
- 北上工場(岩手県北上市)
- 2020年に稼働を開始し、主に3次元フラッシュメモリ(BiCS FLASH™)を生産しています。
北上工場に新たな製造棟が完成

北上工場では、フラッシュメモリ需要の増加に対応するため、第2製造棟(K2棟)の建設が進行中です。建屋は2024年7月に完成し、稼働開始は2025年秋を予定しています。また、管理部門や技術部門は2024年11月から新管理棟への移転を開始する計画です。
なお、K2棟の設備投資には、2024年2月に認定を受けた特定半導体生産施設整備等計画に基づき、助成金の一部が充てられるとのこと。
キオクシアは、「『記憶』で世界をおもしろくする」というミッションのもと、データセンターやAIの普及による需要拡大を見据え、中長期的な成長を目指しています。市場動向に合わせた機動的な設備投資や、競争力を強化するための研究開発を継続することで、デジタル社会の発展に貢献し続けるとしています。
2024年12月18日に上場!想定時価総額は約7800億円

キオクシアホールディングスは2024年12月18日、東証プライム市場に上場しました。初値は1株1440円となり、売り出し価格の1株1455円をやや下回る結果となっています。この初値をもとに算出された時価総額は7762億円であり、今年の大型上場としては10月の東京地下鉄(東京メトロ)に次ぐ規模となりました。
今回の時価総額は、2024年8月の上場申請時に目指していた1兆5000億円を大幅に下回る結果となりましたが、市場の状況を見極めた上で早期の上場を優先させたと見られています。また、関係者によると、キオクシアの過半数の株式を保有している米国投資ファンド「ベインキャピタル」などが、保有株の一部を売却する可能性があるとの見方も示されています。
新方式「承認前提出方式(S-1方式)」を活用した迅速な上場準備
キオクシアは2024年11月8日、新しいIPOの仕組みである「承認前提出方式(S-1方式)」を採用すると発表しました。
この方式は、株式公開までの準備期間を大幅に短縮できる点が特徴で、今回の迅速な上場実現を可能にした一因と言えるでしょう。同社にとってはこれが3度目の上場挑戦となり、過去の試みから学んだ経験を活かした結果とも言えます。
過去2度の上場計画とその見送りの経緯
キオクシアは、これまで2度にわたり上場を計画してきましたが、いずれも市場環境や投資家需要の不足により計画を見送ってきた過去があります。
1回目の計画は2020年8月、東芝から独立してわずか2年後に実施されました。しかし、米中対立の影響でフラッシュメモリー市場が不安定となり、当初想定していた時価総額2兆円には届かず、1.7兆円規模にとどまることに。その結果、同年9月に上場を断念することとなりました。
次いで2024年8月に、フラッシュメモリー市場の回復を背景に再度上場を目指しました。しかし、目標時価総額1.5兆円に対して投資家からの需要が1兆円に満たず、再び計画を見送る結果となりました。
3度目の挑戦を支えた業績改善と市場の好機
今回の上場は、業績が改善している状況を背景に決断されました。同社の2024年4月から9月期の業績では、当期純利益が過去最高の1760億円を記録し、黒字転換を果たしています。この業績改善に加え、半導体メモリー市場が好調な時期を逃さず、上場を実現した形です。
ただし、今回の想定時価総額は目標の1.5兆円を大きく下回る7800億円にとどまりました。この点は課題として残りますが、安定した市場環境下での上場は同社にとって重要な一歩と言えるでしょう。
上場の目的は工場新設に向けた資金調達
キオクシアは、岩手県北上市にある北上工場の新棟を2025年秋に稼働させる計画を立てています。この新棟は最先端の半導体を開発・製造するための施設であり、その建設には多額の資金が必要です。今回の上場によって、銀行からの借り入れ以外の資金調達手段を確保し、同計画を着実に進めることを目指しています。
市場規模:半導体の世界市場は2025年に6873億ドルまで成長
世界半導体市場統計(WSTS)は12月4日、2024年の半導体市場規模が前年から16%増加し、6112億ドル(約95兆円)に達すると発表しました。この見通しは、2023年11月に公表された従来の予測を上方修正したものです。生成AIへの積極的な投資が市場を牽引しており、AIに関連するロジック半導体やメモリー半導体の需要が増加しています。
2024年:2年ぶりのプラス成長
2024年の市場規模は、過去最高だった2022年を上回ると予測されています。特に種類別では、メモリー半導体が前年比で77%増と急回復すると見られています。一方、ロジック半導体は11%増と堅調な伸びを見せる見通しです。
AI関連製品の需要が好調な一方で、スマートフォンやパソコン向けの汎用半導体は、回復のペースがやや緩やかになるとされています。地域別では、アメリカをはじめとする市場の成長が際立っています。
2025年:さらなる成長へ
WSTSは同日、2025年の市場規模も予測を発表しました。2025年の半導体市場は、2024年から12%増加し、6873億ドルと新たな過去最高を記録する見込みです。
生成AIの普及による需要増加が続くほか、再生可能エネルギー関連の電源装置や電気自動車、自動運転技術に使われる半導体の需要がさらなる成長を後押しすると見られています。
日本市場の動向
2024年の日本国内における半導体市場規模は、前年比5%増の約6兆8670億円と予測されています。政府の補助金政策により、国内での半導体関連投資が活発化しており、2025年には9%増の約7兆5088億円に達する見通しです。
企業概要
- 企業名:キオクシアホールディングス株式会社
- 代表者:代表取締役社長 早坂 伸夫
- 設立:2019年3月1日
- 所在地: 〒108-0023 東京都港区芝浦3-1-21 田町ステーションタワーS
- 公式HP:https://www.kioxia-holdings.com/ja-jp/top.html
キオクシアのグループ構成

キオクシアのグループ沿革

まとめ
本記事では、世界最大級のフラッシュメモリ専業企業であるキオクシアホールディングス株式会社について紹介しました。
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