近年SDGsが謳われるように、世界中で持続可能な取り組みの重要性が高まっており、企業はより一層環境に配慮する必要が出てきました。特に温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す企業が増えており、その解決策として再生可能エネルギーの利用が進んでいます。
そこで今回紹介するのが、再生エネルギー由来の電力をより使いやすくする仕組みを開発するデジタルグリッド株式会社(以下、デジタルグリッド)です。同社の主事業である「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」では、需要家と発電化が直接電力を取引できる仕組みを提供し、企業のニーズに柔軟に対応しています。
自由に電力を選んで売買できるインターネットのシステムを創り出す「デジタルグリッド構想」を実現するために、元東京大学工学部教授・現会長の阿部力也氏が創業した同社についてご紹介。
事業内容:電力・環境価値取引プラットフォームを展開
デジタルグリッドの事業内容は、電力・環境価値を取引できるプラットフォームの展開です。具体的には4つの事業を運営しており、企業がより再生可能エネルギーを活用できるよう支援しています。特に注力しているのは、企業の主体的な電力取引を支援する「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」です。
<デジタルグリッドの4つの事業>
- デジタルグリッドプラットフォーム(DGP):企業の主体的な電力取引を支援
- Econohashi(エコのはし):「*非化石証書」の調達を支援
- RE BRIDGE:バーチャルPPA特化型オークションサイトを運営
- GX navi:脱炭素ビギナー向け人材育成サービスを提供
*非化石証書:太陽光発電などの再生可能エネルギー・原子力発電といった非化石電源で発電された電力が持つ、「二酸化炭素(CO2)を排出しない」という 環境価値の部分を分離して取引ができるように証書化したもののこと |
主事業:デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)
デジタルグリッドの主事業である「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」では、需要家と発電家が主体的に電力を取引できるプラットフォームを提供しています。電力会社を経由する従来の仕組みとは異なり、電力を売りたい人・買いたい人を直接マッチングさせるため、いわば電力取引のメルカリです。
たとえば「再エネ100%」「再エネ50%・卸電力50%」など、電力価格をはじめとした複数の要素を考慮しながら、電源構成を発電所単位で柔軟に選択することができます。
マネタイズの方法としては、需要家が望む電源をマッチングさせ、面倒な手続きを代行する際の手数料が収入源。根底にあるのは、電気の利ざやで稼ぐのではなく、必要不可欠なインフラである電気を安定的に届けたいというスタンスだそう。
電力の年間取扱量は卸市場の規模に及んでいませんが、脱炭素化に積極的な大企業を中心に利用が進んでおり、既に2000拠点以上で導入されています。
電気を細かく識別できるため柔軟な電力取引が可能
デジタルグリッドプラットフォームの最大の特徴である「自由な電力取引」を可能にしているのは、「電気の動機識別」というコア技術です。元東京大学工学部教授の阿部力也氏が提唱した「デジタルグリッド構想」に由来する技術であり、IPアドレスのように各ルーターに番号を振ることで、誰から誰にどんなルートで電力が届けられたかを細かく識別できます。
従来の電力系統では、無色の水を川に流すと見分けられないように、送電網を流れる卸電力が再生エネルギーかどうか判別できませんでした。しかし、同技術であれば、発電家・電気の価格・種類を指定したうえで電気の売買履歴を記録できるため、複数の利用者間で自由に電力のやりとりができるようになります。
自立運転可能な分散電源で構成され、地震などの被害にも強い
デジタルグリッド構想のさらなる利点として挙げられるのが、地震などによる電力系統事故の被害を最小限に抑えられる点。
同システムは小規模な発電システムや蓄電池などが集合した「セルグリッド」によって構成されており、その1つ1つについて電圧や周波数を安定させた単独運転(自立運転)が可能です。従来の電力網であれば上流にトラブルがあったら下流は全滅ですが、デジタルグリッドであれば下流だけで耐えることができます。
たとえば東日本大震災を考えると、原発事故により東日本では大規模に停電が起こった一方、周波数が異なり電気的に自立していた西日本では何も問題は起きませんでした。このように電気的に自立した仕組みを活用することで、災害に強い電力システムを形成している点がデジタルグリッドの魅力です。
AIを活用した需給管理で安定した電力取引を実現
デジタルグリッドが同事業を実現するにあたって注力したことの1つが、AIを用いた需給管理。
電力は貯蔵できないため、供給量と需要量を常に一致させる調整が必要であり、この需給バランスが崩れると最悪の場合停電するそう。そのため、従来は24時間常に人力で発電量と需要量を監視していましたが、これでは高負荷かつ多額のコストがかかってしまいます。
また電力の受け渡しに必要な送配電網を利用するためには、発電家・需要家は30分単位の電力需給計画を作成して、1時間前までに提出・事前予約することが必要です。もし提出した計画と実績に差異が生じた場合は、インバランス料金と呼ばれるペナルティが課せられるため、正確に電力の需給を予測する必要があります。
こうした課題に対し、同社のデジタルグリッドプラットフォームでは、「どれだけ発電されるか」「どれだけ利用されるか」をAIが自動で予測し、電力需給を調整します。省人化・省コスト化はもちろん、無駄な罰金を抑えることができ、実際に市場価格に連動した料金プランの手数料と比較すると、DGPは電力会社の約5分の1に抑えられることも。
資金調達:総額100億円超の借入枠を確保
デジタルグリッドは、2024年8月にみずほ銀行や三井住友銀行と、総額106億円の借入枠を確保する契約を結んだと発表しました。
今回の資金調達の目的は、DGPでの取引量拡大に向けた運転資金の充当だそう。電力の調達先への支払いサイトと、取引先からの債権の回収サイトとの乖離により、デジタルグリッドでは一定期間の立替が生じます。そこで今後も見込まれる取扱電力量の増加に伴う立替資金の増加及び卸電力価格の高騰に対応するため、今回の資金調達を実施しました。
市場規模:グリーン電力市場は2040年に約5兆円まで成長
株式会社富士経済によると、2040年度のグリーンエネルギー市場は、電力・ガス・LPGの販売額の18.6%を占める5兆1634億円にのぼるそう。
「2050年カーボンニュートラル宣言」をはじめ、省エネ法の改正など政策動向やGXリーグの構想によって、環境意識が向上しています。そのため大手企業やグローバル企業を中心に、2050年度のカーボンニュートラル達成に向けた脱炭素化への取り組みが増加すると見られ、今後は大幅な伸びが予想されるとのこと。
企業概要
- 企業名:デジタルグリッド株式会社
- 代表者:豊田 祐介
- 設立:2017年10月16日
- 所在地: 〒107-0052 東京都港区赤坂1-7-1 赤坂榎坂ビル3階
- 公式HP:https://www.digitalgrid.com/
まとめ
本記事では、電力・環境価値取引プラットフォームを展開するデジタルグリッド株式会社について紹介しました。
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