人々が期待を寄せる自動運転やメタバースの実現には、高速・大容量通信が可能な次世代通信技術「6G」が必要不可欠です。また、電気自動車やAIの普及に伴い、電力供給の逼迫が予測されており、その対応にも迫られています。
これらの課題を解決する方法として、最近注目されているのが「ダイヤモンド半導体」です。シリコンや炭化ケイ素(SiC)と比べ、ダイヤモンド半導体は圧倒的に高い熱伝導性、耐久性、そして電力効率を持っています。しかし、50年以上研究が続けられているものの、硬いダイヤモンドの精密加工が難しく、実用化は進んでいません。
そんな中、商用化に向けて着実に歩みを進めているのが「大熊ダイヤモンドデバイス株式会社」(以下、大熊ダイヤモンドデバイス)です。福島第一原発事故後、高温・高圧の過酷な環境にも耐えうるダイヤモンド半導体を作ろうと、10年以上研究開発を続け、独自技術を確立しました。
「『すごいベンチャー100』2024年版に選出される」「世界初となるダイヤモンド半導体工場の建設を発表する」など、今後の活躍が期待される大熊ダイヤモンドデバイスについて、事業内容や資金調達等を解説していきます。
事業内容:ダイヤモンド半導体の研究を軸に複数のサービスを展開
大熊ダイヤモンドデバイスは、ダイヤモンド半導体の研究開発を主な事業としています。
最大の強みは、福島第一原発事故を契機に10年以上にわたる研究を積み重ね、独自の知見と実績を築いてきた点です。このノウハウにより、世界で唯一ダイヤモンド半導体の量産化を実現できる企業となっています。
さらに、同社はダイヤモンド半導体を活用したさまざまな市場にも積極的に参入しています。たとえば、原子力発電所の廃炉作業を支援する製品、宇宙環境に対応した衛星、高速大容量が可能な通信機器など、多岐にわたるサービスを提供中です。
このようにダイヤモンド半導体が多様な分野で活用される理由は、”究極の半導体”と称されるほどの高い性能にあります。
なぜダイヤモンド半導体に期待が集まるのか?
ダイヤモンド半導体が注目される理由は、過酷な環境でも使用でき、大きな電力を効率的に使いながら、柔軟な電力制御も可能な点にあります。
従来のシリコンやSiCとは異なり、ダイヤモンド半導体は炭素同士が結びついた非常に頑丈な構造を持っています。そのため、高温や高圧の環境でも動作し、放射線を浴びても構造が壊れにくいのが特徴です。さらに、高温でも問題なく稼働するため、大型の冷却装置が不要で、小型化・軽量化が可能です。
また、絶縁破壊耐性と比誘電率が高く、大きな電力を無駄なく効率的に使用することもできます。高出力高周波素子としての性能も兼ね備えているため、柔軟な電力制御が求められる6Gの基地局に欠かせない技術です。
このように、ダイヤモンド半導体は原子力発電や宇宙空間、さらには電気自動車や通信基地局といった、過酷な環境や電力効率が求められる分野で高い性能を発揮します。
資金調達:2024年10月にPreAラウンドで約40億円を調達
2024年10月17日、大熊ダイヤモンドデバイスは、PreAラウンドでデットファイナンスを含め約40億円を調達したと発表しました。本ラウンドは、既存投資家であるグロービス・キャピタル・パートナーズがリードし、デットファイナンスはみずほ銀行が筆頭金融機関として担当しました。創業から約2年半での累計調達額は、助成金も含め約67億円に達しています。
また、同社は経済産業省の「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」にも採択されました。この補助金は、福島県の避難指示区域等での産業立地や雇用創出を支援するために、工場の新設や増設を行う企業に最大30億円を提供するものです。
大熊ダイヤモンドデバイスは、今回の資金調達と補助金を活用し、世界初のダイヤモンド半導体工場を建設するとしています。具体的には、工場は福島第一原発近くの福島県大熊町に建設予定で、2024年度中に着工し、2026年度には稼働を目指しています。
ダイヤモンド半導体の商用化に向けて着実に歩みを進める、大熊ダイヤモンドデバイスに今後も期待です。
市場規模:次世代パワー半導体は2035年に3兆4579億円へ
富士経済グループによると、2023年のパワー半導体の世界市場は前年比5.2%増の3兆1739億円で、シリコンパワー半導体はほぼ横ばい、次世代パワー半導体が62.2%の伸びでした。なお、本レポートでは、次世代パワー半導体としてSiC、GaN、酸化ガリウム、ダイヤモンドの4つを対象としています。
今後、次世代パワー半導体は順調に成長し、2035年には2023年比で2.4倍の7兆7757億円に達する見込みです。このうち、次世代パワー半導体が全体の約45%にあたる3兆4579億円を占めると予想されており、その成長率は8.8倍にのぼります。
現在SiCは自動車・電装分野、GaNは民生機器での採用が進んでおり、電動車の普及に伴って市場はさらに拡大する想定です。さらに、酸化ガリウムは2024年から、ダイヤモンドは2030年から市場が本格化すると見られており、今後の成長が期待されています。
企業概要
- 企業名:大熊ダイヤモンドデバイス株式会社
- 代表者:代表取締役 星川 尚久
- 設立:2022年3月1日
- 所在地: 〒001-0021 北海道札幌市北区北21条西12丁目2北大ビジネススプリング
- 公式HP:https://ookuma-dd.com/
まとめ
本記事では、世界で最もダイヤモンド半導体の商用化に近づいている大熊ダイヤモンドデバイス株式会社について紹介しました。
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