今回紹介する「自然電力株式会社」(以下、自然電力)は、再生可能エネルギー発電所の開発から運用までを一貫して手掛ける企業です。「青い地球を未来につなぐ」という理念のもと、太陽光や風力、小水力、バイオマスなど多様なエネルギー源を活用し、持続可能な社会を実現する取り組みを進めています。
その実績が高く評価され、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2025」で1位を獲得。3年連続でTOP3にランクインし、名誉ある「殿堂入り」を達成しました。本記事では、自然電力の事業内容や創業ストーリー、さらなる挑戦について詳しく解説します。
事業内容:再生可能エネルギーを軸に一気通貫でサービスを提供
自然電力は、再生可能エネルギー発電所の開発から、その運用までを一貫して手掛ける企業です。具体的には、「青い地球を未来につなぐ」という理念を掲げ、太陽光、風力、小水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーを活用した発電所を開発。また、設計・調達・建設(EPC)、販売、運用保守までのすべてを包括的に対応しています。
創業から13年の間に、世界10カ国以上で事業を展開し、開発した発電容量は原子力発電所1基分に相当する1262.5MWを超えました(2024年6月時点)。
<自然電力の事業一覧>
- 太陽光発電事業:太陽光発電所の開発、設計・調達・建設(EPC)、保守・管理、アセットマネジメントサービスを提供
- 風力発電事業:風力発電所の開発、建設、保守・管理、アセットマネジメントサービスを提供
- 脱炭素ソリューション事業:国内外の環境証書・クレジットの取引仲介や創出支援、CO2排出量算定・情報開示支援等のサービスを提供
- エネルギーテック事業:電力の需給バランスを効率的に調整するサービスを提供
- 地域事業:現地企業・自治体・団体と共に脱炭素化を推進するスキームを構築
- 海外事業:ブラジルやインドネシア、マレーシアなどで再生可能エネルギー発電所を開発
再エネトップ企業「JUWI」と提携して事業拡大
2012年、自然電力は再生可能エネルギー分野の世界トップ企業であるドイツのJUWI社と戦略的な提携を結びました。このパートナーシップにより、風力や太陽光発電所の建設に必要なノウハウを吸収。具体的には、発電所建設に適した場所の選定方法や、地域との合意形成の進め方、難易度の高い現場での工法など、再エネ開発に必要な最先端の知識を学びました。
そして、JUWIとの提携を通じて事業を拡大する一方、品質の高い再生可能エネルギーを低コストかつ迅速に提供するには、合弁経営の枠を超えて最適化する必要があると判断。2024年3月、自然電力は合弁で運営していた2社の全株式を取得し、100%子会社化を達成しました。これにより、さらに効率的な事業運営が可能となりましたが、JUWIとの協力関係は継続されています。
通常、合弁解消時には提携相手企業の社員が本社に戻るケースが一般的ですが、今回2人のJUWI出身マネジャーが自然電力グループに残留。両社が共通の目標を持ち、信頼関係を維持していることがうかがえます。
東南アジアやブラジルを中心に海外へも事業展開
自然電力は、2016年以降、海外事業を本格的に展開。東南アジアやブラジルを中心に、再生可能エネルギー発電所の開発・運用を推進しています。これまでに国内外で1GW以上の再エネ発電事業に携わってきました。
さらに、地域社会に根ざした活動を通じて、エネルギーを基盤とした地域の再活性化にも注力しており、デジタル技術を活用してエネルギー効率の安定化を図っています。
エネルギーテック事業にも参入
自然電力は、2019年からはエネルギーテック事業にも参入。自社開発のエネルギー管理システム(EMS)を活用し、以下のような技術を展開しています。
- マイクログリッド構築:地域内で電力を効率的に利用する仕組みを設計。
- 仮想発電所(VPP):蓄電池や電動車(EV)をネットワークで結び、需給バランスを調整するシステムを開発。
- EVのスマート充放電サービス:電動車両の充電を効率的に管理。
また、特筆すべき点として、2024年7月には、エネルギーテック事業を担う子会社「Shizen Connect」が、大手電力会社を含む8社から8.6億円の資金調達を実施しました。この資金をもとに、仮想発電所(VPP)技術の社会実装を加速させています。
実は近年、再エネの拡大により、太陽光で発電された電力が余る場面が出てきました。そこで注目されているのが、企業や家庭の蓄電池やEVをネットでつなぎ、1つの発電所として需給バランスを調整する「仮想発電所(VPP)技術」です。Shizen Connectはこのプラットフォームを開発・運用し、提携先企業をはじめ、電力業界のさまざまなプレイヤーが活用できるVPPとして社会実装を進めています。
創業ストーリー:自然エネルギーへの情熱が生んだ挑戦
自然電力は2011年6月に、磯野謙氏、長谷川雅也氏、川戸健司氏の3名によって設立されました。彼らの出会いは、2005年頃から共に働いていた風力発電会社に遡ります。それぞれが異なる背景や原体験を持ちながらも、自然エネルギーに対する強い想いが共通点となり、創業の原動力となりました。
創業メンバーそれぞれの原体験と想い
- 磯野謙:幼少期に長野や北海道、カリフォルニアの自然に親しむ中で、地球環境の変化や有限のエネルギーを巡る争いに危機感を感じる。自然エネルギーを通じて、未来に貢献することを目指すように。
- 長谷川雅也:栃木の自然豊かな環境で育ち、趣味のサーフィンをするうちに、傍で回る風車に興味を持ったことがきっかけで、自然エネルギーへの関心を深める。
- 川戸健司:「人が生きるために役に立つ仕事を」という祖父の言葉を胸に、学生時代に携わった風力事業を通じてインフラ事業の可能性に感銘を受ける。
このように、それぞれが異なる原体験や想いを抱える中、3人はある風力発電会社で出会います。
東日本大震災がもたらした決意
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、彼らの人生に大きな影響を与えました。福島第一原子力発電所の事故により、エネルギーの安全性と持続可能性に対する社会的関心が高まりました。当時、同じ風力発電会社で働いていた彼らは、自然エネルギーが持つ潜在力を確信し、「自らが行動を起こさなければならない」という思いを強く抱きます。
震災からわずか3か月後、彼らは自然エネルギーを通じて復興支援と社会貢献を果たすべく、自然電力を設立しました。この決断は、「再生可能エネルギーの普及を使命とする」という揺るぎない信念に基づいています。
信念を胸に未来に向けて挑戦
自然電力の設立当初、事業立ち上げには多くの困難が伴いました。しかし、挑戦を続ける中で少しずつ成果を積み重ね、未来への歩みを進めていきます。
2012年には熊本県合志市で初のメガソーラー発電所を完成させ、再生可能エネルギー事業の実現に成功。2013年にはドイツの自然エネルギー大手JUWI社と提携し、国際的なジョイントベンチャーを立ち上げるなど、グローバル展開も積極的に進めてきました。
その後も事業領域を拡大し、デジタル技術を活用した新たな事業にも挑戦。現在は「再生可能エネルギー100%の世界を共につくる」というビジョンを掲げ、約500名のクルー(従業員)や地域社会との連携を深めながら、持続可能で美しい未来の実現に向けて努力を続けています。
Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2025」にて1位に選出
2024年11月25日発売のForbes JAPAN2025年1月号にて、特集「日本の起業家ランキング2025」が発表されました。このランキングで、自然電力の共同創業者である磯野謙さん、川戸健司さん、長谷川雅也さんが見事1位に選出。さらに、3年連続でTOP3にランクインしたことで、名誉ある「殿堂入り」も達成しています。
この快挙は、共同創業者3名の卓越したリーダーシップに加え、自然電力グループ全体が持つ強みや、革新的な取り組みが評価された結果です。特に、気候変動という世界規模の重要課題に対する同社の取り組みが、高く評価されたことが背景にあります。
ランキング1位に選ばれたことを記念して執筆されたインタビュー記事では、これまでの歩みや創業メンバーの成長、そして脱炭素社会の実現に向けた強い意志が語られています。興味のある方は、ぜひ記事をご覧ください。
日本市場:2022年度の再生可能エネルギー市場は2兆405億円
富士経済グループによると、2022年度の再生可能エネルギー発電システムの国内市場規模は2兆405億円に達すると予測されています。この市場のうち、太陽光発電システムが市場全体の6割弱を占めており、依然として大きな割合を占めています。ただし、太陽光発電の市場規模は縮小傾向にある状況です。
一方、太陽光以外の発電システムでは拡大が続いています。特に、バイオマス発電システムでは、一般木質や農作物残さを活用した大規模な案件が次々と稼働しています。また、風力発電システムでは大型風力設備が成長をけん引しており、洋上風力発電の運転開始が予定されるなど、好調な動き出しです。
長期的な市場動向:太陽光発電の市場規模は縮小
今後、太陽光発電システムはFIT制度から移行した「Non-FIT(FIP)」のスキームを活用する形で、自家消費型やPPA、自己託送、売電事業などにより導入が進む見込みです。ただし、システムの量産が拡大することで価格が下落し、市場規模としては縮小が続くと予想されています。
一方で、風力発電システムは、洋上風力の本格的な導入が進むことで急成長する見込みです。この伸びが、太陽光発電システムの市場縮小を補う形になると考えられています。
2035年度の予測:再生可能エネルギー市場は1兆5915億円に減少
2035年度の再生可能エネルギー発電システムの国内市場規模は、2021年度比で7.4%減少し、1兆5,915億円になると推測されています。しかし、太陽光発電システム以外の発電システムが市場全体の6割を占めると予想されており、太陽光から風力やバイオマスといった他のシステムにシフトしながら、再生可能エネルギー市場は持続的な発展を遂げていく見込みです。
世界の市場動向:再エネ導入量は2022年の2.7倍に拡大
国際エネルギー機関(IEA)は、最新の報告書において、再生可能エネルギー市場が今後大幅に成長すると予測しました。報告書によると、各国の政策支援を背景に、2030年までに世界の再生可能エネルギー導入量は2022年の約2.7倍に拡大するとされています。中でも、太陽光発電がこの成長をけん引する見通しです。
COP28の目標と導入拡大の可能性
2023年12月に開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、2030年までに再生可能エネルギーの導入量を3倍に拡大するという目標が掲げられました。IEAは、現在のペースで導入が進めば、この目標の達成は可能だと分析しています。
具体的には、2024年から2030年の間に、世界で新たに5500ギガワット以上の発電容量が増加する見込みです。この数字は、2017年から2023年までの増加分の約3倍に相当します。
再生可能エネルギーの導入を後押しする要因
IEAのビロル事務局長は、「再生可能エネルギーが世界で最も安価な発電手段となっていることが、普及の主な理由だ」と述べています。特に太陽光発電は、中国が中心となり急速に導入が進んでおり、2030年までに同国が世界全体の約6割を占めると予想されています。また、インドでも再生可能エネルギーの導入が急速に進む見通しです。
さらに、これまで導入の伸びが鈍化していた風力発電についても、回復の兆しが見られると指摘されています。
再生可能エネルギー普及の課題と解決策
再生可能エネルギーのさらなる普及を進めるためには、政策支援の拡充が欠かせません。IEAは、送電網の整備の遅れが再生エネルギーの発電量を抑制する要因となっていると指摘し、電力網の更新や新設を通じて、再エネに適した電力システムを構築する必要があると訴えました。
また、太陽光発電に関連する製造分野では、中国企業が2030年までにほぼ全てのセグメントで優位性を保つと見られています。一方、米国とインドでは、電池などの製造能力が現状の約3倍に拡大する見込みです。特に、米国は2022年に成立したインフレ抑制法(IRA)に基づき、蓄電池の製造業者に対する大規模な減税措置を実施しており、製造の拡大が期待されています。
しかし、米国やインドで製造される太陽光発電モジュールのコストは、中国製の2~3倍に達するという課題も存在します。IEAは、現地生産のコストや雇用創出、エネルギー安全保障といった利益を総合的に評価しながら、政策を策定することが各国に求められると指摘しています。
企業概要
- 企業名:自然電力株式会社 (Shizen Energy Inc.)
- 代表者:代表取締役 磯野謙、川戸健司、長谷川雅也
- 設立:2011年6月
- 所在地: 〒810-0062 福岡県福岡市中央区荒戸1-1-6 福岡大濠ビル3F
- 事業内容:太陽光・風力・その他再生可能エネルギーによる発電施設および蓄電施設の開発と電力販売、コンサルティング業、アセットマネジメント事業、ソフトウェア・システムおよびサービスなどの企画・設計・開発・運用保守等
- 公式HP:https://www.shizenenergy.net/
まとめ
本記事では、再生可能エネルギー発電所の開発から運用までを一貫して手掛ける自然電力株式会社について紹介しました。
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自然電力株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。