多くの人々が日常的に飲んでいるコーヒー。米国のコーヒー研究機関「World Coffee Research」によると、世界のコーヒー生産量は過去30年で600万トンから1030万トンと飛躍的に上昇したそうで、昨今の人気の高さが表れています。
しかし、そんなコーヒーが飲めなくなる世界が来るかもしれません。実は「コーヒーの2050年問題」が巷で囁かれており、気候変動に伴う温暖化などが原因で、2050年にはコーヒーの生産量が現在の半分まで落ち込むと危惧されています。また森林伐採や生産者の過酷な労働環境など、いまだにさまざまな課題がコーヒ業界に残っています。
そこで、こうしたコーヒーの課題を解決するべく創業されたのが「Atomo Coffee, Inc.」(以下、Atomo Coffee)というアメリカのスタートアップです。同社は4年をかけて、コーヒー豆を使わないサステナブルなコーヒーフレーバー飲料「Beanless Coffee」を開発しました。材料には農業廃棄物を利用するほど環境に配慮しており、その持続可能性をTime誌からも高く評価されています。
2024年8月27日に日本への上陸も果たしており、ますますの活躍が期待されるAtomo Coffeeについて紹介していきます。
事業内容:コーヒー豆を使わないコーヒーフレーバー飲料を販売
Atomo Coffeeの事業内容は、コーヒー豆を使わない、新しい形のコーヒーフレーバー飲料の開発・販売です。その最大の特徴は、農業廃棄物を活用した*アップサイクルにより、コーヒー粉や飲料を生産している点にあります。
*アップサイクル:廃棄予定のものに加工を行い、商品価値を高めること
同社は「リバースエンジニアリング」の手法を用いて、コーヒー豆の分子構造を徹底的に分析。通常であれば廃棄されるデーツ種子などの材料を再利用し、レモンやグアバといった植物由来の成分と組み合わせることで、コーヒーのような味や香りが楽しめるエスプレッソ粉を生産しています。
このように、農場栽培等で広く入手可能なスーパーフード・アップサイクルされた食材を用いながらも、「香り・ボディ・色・味・カフェイン」を個別に解析・最適化することで、本格的なコーヒーに近いフレーバー飲料に仕上げているのが、Atomo Coffeeの強みです。
また遺伝子組み換え作物は使っておらず、抗酸化物質が豊富で、クリーンなカフェインが含まれるため健康的な飲み物だそう。味についても申し分なく、ワシントン大学で行われた目隠しでの試飲会では、30名中21名が「スターバックスよりもおいしい」と評価したそうです。
通常のコーヒーと比べて環境負荷が小さくサステナブル
Atomo Coffeeはエスプレッソ粉を生産する際に、通常のコーヒーと比べて、二酸化炭素の排出量を83%削減し、農業用地の使用面積を70%減らすことに成功しました。またコーヒー豆を育てるために使用する水の量を94%も減らすことができるとのこと。
私たちが普段飲んでいるコーヒーの豆が採れるアラビカ種の木は、標高1000m級の寒暖差の激しい高地で栽培されています。アラビカ種は病気や熱に弱く、気温上昇や降雨量の変化は「さび病」という深刻な病気を引き起こし、品質の低下や収穫量の減少を招くそう。そのため2050年にはアラビカ種の生産高が現在の半分になると言われています。
コーヒーに特化しながら、ゼロウェイストや農業支援、脱炭素といった、幅広い社会問題に対応している同社の取り組みはまさにサステナブルであり、今後の成長に期待です。
日本へ初上陸!渋谷にてエスプレッソ粉の販売等を開始
Atomo Coffeeは2024年8月27日から、渋谷にあるカフェ「ash zero waste cafe & bar」にて、日本での販売を開始すると発表。カフェ内でコーヒーをいただけるほか、同社のエスプレッソ粉2種を購入することができます。
なお「ash zero waste cafe & bar」は「zero-waste」(廃棄物ゼロ)をコンセプトとしたカフェ&バーであり、Atomo Coffeeにとって初の海外パートナーシップだそう。これから日本全国に事業が展開することに期待です。
<店舗情報>
- [zero-waste cafe & bar]
- 店舗住所:150-0041 東京都渋谷区神南1-5-2 川村ビル1F
- 営業時間:10時-23時(当面の間火曜休) *完全キャッシュレス会計
- Instagram:https://www.instagram.com/ash_jinnan/
- Facebook:https://www.facebook.com/ash.jinnan
資金調達:サントリーが数百万ドルの出資を実施
Atomo Coffeeは2023年11月30日に、サントリーホールディングスから出資を受けたと発表しています。正確な資金調達額は明らかになっていませんが、Bloombergによると、その規模は数百万ドル規模だろうとのことです。
今回海外スタートアップへの出資をおこなったのは、サントリーホールディングスの未来事業開発部であり、本件が2件目になります。
<今までの資金調達>
時期 | ラウンド | 資金調達額 | 投資家 |
---|---|---|---|
2023/11/30 | シリーズA | 不明 | Suntory |
2023/01/01 | シリーズA | 不明 | Climate Capital |
2022/02/09 | シリーズA | $41.6M | S2G Ventures, AgFunder |
2020/08/11 | シード | $9M | S2G Ventures, AgFunder |
2019/08/19 | シード | $2.6M | Horizons Ventures |
創業のきっかけ:「コーヒーの2050年問題」への課題感
Atomo Coffeeは起業家のAndy Kleitsch、食品科学者のJarret Stopforthによって創業されました。大のコーヒー愛好家だったAndy Kleitschが、「コーヒー業界において地球に優しい事業ができないか」と考えたのがきっかけだったそう。
彼らはまず、焙煎や粉砕・発酵が可能な「コーヒー豆に似た種子」を持つ果物や植物を探すことから始めました。そして、その中でも近隣の農家から廃棄物として出されるアップサイクル可能なものを選出。製造の過程で、農業廃棄物の削減と農家支援につなげることを意識していたとのこと。
開発から数ヶ月後、バイオコーヒーは見事完成。2019年2月にKickstarterで初披露し、世界的な注目を集めます。2020年には900万米ドルの資金調達をし、シアトルのダウンタウンに 「焙煎所」を建設することを決定。この焙煎所は、スターバックス本社からわずか数ブロックの場所にあるといいます。
市場トレンド:代替コーヒーが注目の領域
昨今、食肉や乳製品といった主要なタンパク源の代替が進む中で、代替コーヒーの分野もプレーヤーが増加しています。コーヒー生産は、食品・飲料カテゴリーの中で温室効果ガスの排出が6番目に多く、実は環境負荷が高いという事実も、この動きに拍車をかけているといえるでしょう。
米国発のMinusは、Atomo Coffeeと同じく植物由来のアップサイクル原料を使用して、ビーンレスコーヒーを製造。250mL缶を5ドル(約750円)の高価格で販売しています。Voyage Foodsは、全米1200店舗のウォルマートで取り扱う、ピーナッツバターの代替品・カカオフリーのチョコレートなどを開発し、現在までに4170万ドルの資金調達を成功させています。
一方で植物細胞を培養して「本物」のコーヒーを育てる、フランスのSTEM・アメリカのCalifornia Culturedといった、バイオテクノロジーに特化したスタートアップ企業も登場。カナダのCult Food Scienceは、細胞ベースのコーヒーに炭酸を混ぜた「Zero Coffee」を間もなく発売予定です。
また業界最大手のスターバックスが、将来に備えて気候変動に強いコーヒーの木の品種を流通させているという報道もあります。いずれにせよ、コーヒー市場の課題解決には複数のアプローチが必要と考えられ、さまざまな代替品開発の動きから今後も目が離せません。
企業概要
- 企業名:Atomo Coffee, Inc.
- 代表者:CEO Andy Kleitsch
- 設立:2019年
- 所在地: アメリカ合衆国ワシントン州シアトル
- 公式HP:https://www.atomocoffee.com/ja
まとめ
本記事では、コーヒー豆を使わないコーヒーフレーバー飲料の販売を行うAtomo Coffee, Inc.について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
Atomo Coffee, Inc.のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。