最終更新日 25/01/31
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【bitBiome】微生物のさらなる可能性を探究するバイオテックスタートアップ

ヘルスケア
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(引用:bi0Biome公式HP)

地球上には数百万種類以上の微生物が存在していると考えられていますが、その大半は未だに研究されておらず、どのような機能を持っているのかも解明されていません。

今回紹介するbitBiome株式会社」(以下、bitBiome)は、この未開拓の領域に着目し、微生物が持つ遺伝情報を解析することで、医療・化学・食品・環境分野に新たな技術革新をもたらそうとしています。

2018年、早稲田大学の細川正人准教授の研究成果をもとに設立された同社は、培養を行わずに1つの微生物細胞からでも遺伝情報を解析できる独自技術「bit-MAP®」 を開発。この技術を駆使することで、従来の手法では解読が難しかった微生物のDNA情報を網羅的に取得し、それを活用したさまざまな事業を展開しています。

この記事では、bitBiomeの事業内容、技術の詳細、そして最新の資金調達の状況について詳しく解説します。

bitBiomeの事業内容:有用な微生物を発見・開発

bitBiomeは、地球上に無数に存在する微生物の持つ潜在能力を活かすため、微生物の遺伝子情報を解析する技術を開発しています。その中核となるのが、同社が作成した世界最大級の微生物ゲノムデータベース「bit-GEM」。bitBiomeはこのデータを活用し、新しい酵素の発見・改変を行う技術を提供しています。

【bitBiomeが提供するサービス】

  • Enzyme Discovery & Engineering Service(酵素の発見・改変サービス)
  • SynBio Applications(合成生物学を活用した応用開発)
  • Microbiome Sequencing Service(マイクロバイオーム解析サービス)

1.Enzyme Discovery & Engineering Service(酵素の発見・改変サービス)

(引用:bitBiome公式HP)

bitBiomeは、世界最大級の微生物ゲノムデータベース「bit-GEM」を活用し、新しい酵素を発見・最適化するサービスを提供しています。

酵素は食品・製薬・化学産業など幅広い分野で利用されている重要な分子ですが、従来の技術では新しい酵素を発見するのに膨大な時間とコストがかかっていました。

そこでbitBiomeは、未培養微生物や極限環境微生物など(これまで培養が困難だった微生物)の遺伝情報を解析し、より多様な酵素の発見を可能にする技術を開発。独自のデータベースを活用することで、有用だと考えられる遺伝子の特定と最適化を迅速に実現し、クライアントの研究開発を支援しています。

この技術は、以下の分野での応用が期待されています。

  • 製薬分野:特定の病気に有効な酵素を迅速に発見し、新薬開発を加速
  • 化学産業:環境負荷の少ない化学合成プロセスの実現
  • 食品分野:発酵技術の改良や、食品の風味や栄養価を向上させる酵素の開発

2.SynBio Applications(合成生物学を活用した応用開発)

bitBiomeは、微生物の遺伝情報を活用し、環境・医療分野に新たなソリューションを提供しています。

特に注力しているのが、プラスチック分解酵素の開発です。プラスチックごみの問題が世界的に深刻化する中、bitBiomeはPET(ポリエチレンテレフタレート)を分解できる酵素の進化改良を進めています。bit-GEMには35,000種類以上のプラスチック分解酵素の候補が蓄積されており、これを活用することで最適な酵素の開発が可能です。

また、bitBiomeは抗菌タンパク質(エンドライシン)の探索にも取り組んでいます。エンドライシンは細菌の細胞壁を分解するタンパク質であり、抗生物質とは異なる作用メカニズムを持つため、薬剤耐性菌(AMR)に対する新しい治療法として医療分野での活用が期待されています。

3.Microbiome Sequencing Service(マイクロバイオーム解析サービス)

bitBiomeは、腸内・皮膚・土壌・海洋などに存在する微生物を、従来よりも高精度に解析できるサービスを提供しています。

従来のメタゲノム解析(環境中の微生物のDNAを一括解析する技術)では、複数の微生物のDNAが混ざるため、個々の微生物の機能を詳細に把握するのが困難でした。しかし、bitBiomeが独自に開発した「bit-MAP」技術を用いることで、個々の微生物の全ゲノム情報を解析し、より精密な研究が可能になります。

この技術は、以下の分野で活用が進められています。

  • 創薬:腸内細菌が持つ機能を解析し、腸内環境を改善する新たな医薬品の開発
  • 食品:発酵食品の品質向上や、新しい乳酸菌の発見
  • 農業:土壌微生物の働きを活用した農作物の成長促進

bitBiomeのコア技術

bitBiomeが提供する革新的なサービスの根幹には、微生物の遺伝子情報を高精度に解析する独自技術があります。これらの技術は、未培養微生物の解析を可能にし、従来の手法では発見できなかった有用な遺伝子を見つけ出すことを可能にしました。

【bitBiomeのコア技術】

  • bit-MAP® : bitBiome Microbiome Analysis Platform
    • 微生物1細胞単位での高精度遺伝子解析を可能にする技術
  • bit-GEM:Gene Encyclopedia from Microbes
    • 20億以上もの遺伝子が記録されている世界最大級の微生物ゲノムデータベース
  • bit-QED:bitBiome-Quality Enzyme Discoverer
    • AIとバイオインフォマティクスを活用した高速・高精度な酵素探索

1.bit-MAP® : 微生物のシングルセル解析技術

(引用:bitBiome公式HP)

bitBiomeのbit-MAP®は、培養せずに1つの微生物細胞から直接ゲノム解析を行う世界初の技術です。従来のメタゲノム解析では、複数の微生物のDNAが混ざってしまい、個別の微生物の遺伝子機能を正確に把握することが困難でした。

しかし、bit-MAP®では、微小なカプセルに微生物を1細胞ごと閉じ込めて、細胞膜の破壊やDNAの抽出・増幅などの多段階の反応を精密に制御。そして、カプセル内部で正確に増幅されたDNAを個別に分析することで、微生物1つ1つのゲノム配列を高い精度で解読します。

【bit-MAP®の技術的優位性】

  • 未培養微生物の解析が可能:これまで培養が難しかった環境微生物や極限環境微生物の遺伝情報を取得できる
  • 個々の微生物を高精度で解析:1つの微生物細胞ごとにDNAを抽出・増幅・解析することで高精度なゲノム情報を獲得できる
  • 迅速かつ効率的な解析:短期間で多数の微生物の全ゲノム情報を解析できる

2.bit-GEM:世界最大級の微生物ゲノムデータベース

(引用:bitBiome公式HP)

bit-GEMは、bitBiomeが独自に構築した世界最大級の微生物ゲノムデータベースです。従来の公共データベースでは記録されていない、約20万の微生物ゲノム情報(約20億の遺伝子)を収録しています。この膨大なデータベースを活かして、クライアントのプロジェクトにとって最適な遺伝子を提供することで、研究開発をサポートしています。

【bit-GEMの特徴】

  • 世界最大級の微生物ゲノムデータを収録
  • 従来のメタゲノム解析では獲得できなかった遺伝子データを多数収録
  • 研究開発を加速するための遺伝子ライブラリとして活用

3.bit-QED:AIを活用した高速・高精度な酵素探索プラットフォーム

(引用:bitBiome公式HP)

bit-QED(bitBiome-Quality Enzyme Discoverer)は、bit-GEMの膨大な遺伝子データを活用し、AIとバイオインフォマティクス技術を駆使して最適な酵素を発見・改変するプラットフォームです。

【bit-QEDの強み】

  • 従来よりも迅速な酵素探索:AIを活用することで、従来の手法と比較して数十倍の速度で最適な酵素を発見可能
  • 産業用途に応じた最適化が可能:用途ごとに最適な変異を加えることで、実用化しやすい酵素を提供
  • コスト削減と効率化:従来のランダム変異導入やスクリーニング手法と比べ、コストを大幅に削減できる

資金調達:2025年1月に4億円を調達

bitBiomeは資金調達を積極的に進めており、2025年1月にはグローバルシードエクステンションのセカンドクローズとして総額4億円の資金を調達しています。

この資金調達は、東京応化工業株式会社、株式会社アイティーファーム、KIRIN HEALTH INNOVATION FUND、Niterra 水素の森ファンドといった戦略的投資家からの第三者割当増資により実施。

これにより、bitBiomeの累計資金調達額(エクイティおよびグラントを含む)は35億円に到達し、さらなる技術開発と事業展開を加速させる基盤を確立しました。

今回の資金調達の目的

bitBiomeは、今回の4億円の資金調達を以下の3つの分野に重点的に投資する予定です。

  1. プラットフォームの強化:bit-GEM、bit-QED、bit-MAP®技術のさらなる改良
  2. 事業開発の拡充:国内外での市場展開、共同開発プロジェクトの推進
  3. 製品開発の加速:新規酵素やマイクロバイオーム解析ツールの商業化

これらの取り組みにより、bitBiomeは微生物由来のバイオテクノロジーをさらに進化させ、医薬・化学・環境・食品などの多様な産業分野での応用を加速させていくとしています。

企業概要

  • 企業名:bitBiome株式会社(bitBiome,Inc.)
  • 代表者:代表取締役社長CEO 鈴木 悠司
  • 設立:2018年11月7日
  • 所在地: 〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町513 早稲田大学121号館 リサーチイノベーションセンター415号室
  • 公式HP:https://bitbiome.co.jp/

まとめ

本記事では、微生物の遺伝子情報を解析する技術を研究・開発するbitBiome株式会社について紹介しました。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

bitBiome株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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