日本の飲食店は、海外と比べても非常に高品質なサービスを提供しています。しかし、その利益率は低く、昨今のIT企業のような成長を果たせていません。
この問題に取り組むのが、「日本の外食を、ひっくり返せ。」をパーパスにかかげる「株式会社CRISP」(以下、CRISP)です。同社は、テクノロジーを通じた日本の外食産業の変革を目指すと同時に、伝統的な慣習や「当たり前」にとらわれず、外食の未来を進化させる新しいレストラン体験の創造に挑戦しています。
実際に、カスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を運営するほか、飲食店の課題解決に特化したAPPやSaaSも自社開発。2024年11月1日に3億円を資金調達するなど、注目を集めるCRISPについて、その事業内容等を紹介していきます。
事業内容:テクノロジーを軸にカスタムサラダ専門店を運営
CRISPはテクノロジーの力を活用して、日本の外食産業に変革をもたらすことを目指している企業です。独自のDX手法である「クリスプメソッド」を活用し、カスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を運営しています。
CRISPの特徴は、「カスタマー」「オペレーション」「店舗スタッフ」の3つの領域においてDXを実施し、テクノロジーと人の力を組み合わせることで、顧客に最高の体験を提供すると同時に、従業員にとっても働きやすい環境を実現している点にあります。
まず、カスタマーの面では、注文プロセスをデジタル化し、膨大な顧客データを収集することで顧客のニーズを深く理解。その結果、85%のユーザーから最高評価を獲得することに成功しています。
次に、オペレーションの面では、全店舗に自社開発のセルフレジやモバイルオーダーアプリを設置し、注文から決済までの流れをDX化。店舗のオペレーションをデジタル化し、提供スピードや良品率などのKPIを分析改善することで、店舗の生産性を前年比23%も向上させています。
さらに、店舗スタッフの面では、勤怠・エンゲージメント管理アプリ「クリスプワークプレイス」を独自開発し、約500名の店舗スタッフの働き方やインセンティブをDX化。スタッフのシフトの自由度を圧倒的に高め、需給バランスに応じたダイナミックな報酬設計を行った結果、従業員満足度は90%まで向上、店舗のシフト充足率も98%以上を維持しています。
このように、CRISPはまるでSaaSを提供するIT企業のようにも見えますが、従来の外食企業とは一線を画す、新しい形の「コネクティッド・レストラン」(後述)を目指す外食企業です。
CRISPが目指す「コネクティッド・レストラン」
CRISPが目指すのは、従来の外食企業とは一線を画す「コネクティッド・レストラン」と呼ばれる新しいビジネスモデルです。
「コネクティッド・レストラン」とは、テクノロジーの力を活用し、従来にはない革新的な顧客体験を提供しながら、「非連続な成長」と「高い収益率」を達成することを目指した外食業界の新しい形です。
CRISPの代表取締役である宮野浩史氏は、現代の外食業界が一般的に「非連続な成長」や「高い収益率」を実現しにくいことを指摘しています。本来であれば、顧客からの支持が得られれば、事業規模が拡大し、キャッシュフローも増大するうえ、サービスの充実化や調達コストの削減によって、企業の利益率が向上していくはずです。しかし、現実には多くの外食企業がこのような成長を遂げられていません。
レストランの価値は大きく「料理(商品力)」「人(接客力)」「空間(業態力)」の3つに分かれると言われており、日本にはこれらを高いクオリティで提供している外食企業が多数存在します。しかし、宮野氏によると、この3つの要素をどれだけ追求しても、「非連続な成長」や「高い収益率」には結びつかないため、外食業界がいわゆる「斜陽産業」となってしまっています。
そこで、この課題を解決し、外食業界を高成長・高収益の産業へと変えることを目指して、データドリブンな経営を導入・推進しているのがCRISPです。同社は、ソフトウェア企業のように、データドリブンな経営をする外食企業を増やすために、自社のKPIを「CRISP METRICS」にてリアルタイムで公開しています。
資金調達:2024年11月にロッテなどから3億円を調達
CRISPは2024年11月1日、株式会社ロッテベンチャーズ・ジャパン、株式会社ソウ・ツー、ならびに既存投資家であるOne Capital株式会社を引受先として、3億円の資金調達を実施したと発表しました。
また、ロッテベンチャーズ・ジャパンの代表取締役社長である國分 丈明氏が、CRISPの社外取締役に就任することも併せて公表されています。
今回調達した資金は、「クリスプサラダワークス」の出店強化、成長を支えるための組織体制の構築、およびM&Aをはじめとする成長戦略の推進に活用される予定です。
CRISPはこれまで、クリスプサラダワークスの、「顧客対応」「オペレーション」「店舗スタッフ」の3つの領域にDXを導入。このDX化により、テクノロジーと人の力を融合させ、最高の顧客体験と従業員体験を両立させ、収益性の向上とブランドロイヤリティの強化を実現してきました。
そして、次のフェーズとして、CRISPは独自のDX手法である「クリスプメソッド」を、M&Aした飲食ブランドにも導入し、さらなる成長を目指すとしています。これにより、同社は外食産業全体の変革にも挑戦していく考えです。
市場規模:外食産業の国内市場は2024年に34.4兆円の見込み
富士経済グループによると、日本の外食産業の市場規模は、2024年に前年比4.7%増の34兆3916億円になる見通しです。この成長の要因には、各種フェアメニューの展開強化によってファストフードの利用が増加すると予測されることや、国内旅行者やインバウンドの増加によって、交通機関やレジャー施設、宿泊宴会場の利用が増加していることが挙げられます。
また、モーニング、ランチ、ディナーなどの時間帯での需要は回復してきていますが、新型コロナウイルス感染症によって生活様式が変化した影響を受け、深夜帯の需要は依然として伸び悩んでいるとのことです。
なお、2023年には、新型コロナウイルス感染症の分類が5類に移行し、人々の流れが回復したことから、市場も回復基調にありました。さらに、食材費や人件費、物流費の高騰に伴い、価格改定や高単価・高付加価値メニューの提供が進んだ結果、顧客単価も上昇し、市場は前年比9.1%増加しています。この市場拡大には、コロナ禍でも好調だったファストフードやホームデリバリーのほか、ファミリーレストランやレジャー施設、飲食店の需要が寄与しました。
飲食業界のデジタルツール導入率は58.3%
株式会社リクルートが運営するグルメ情報サイト「ホットペッパーグルメ」および、その調査・研究機関「ホットペッパーグルメ外食総研」が、全国の飲食店経営者1029人を対象に行ったアンケートによると、いずれかのデジタルツールを導入している店舗の割合は58.3%に達し、2年連続で増加しました。
導入されているデジタルツールの内訳としては、「キャッシュレス決済」(40.6%)、「自社ホームページの制作やローカルビジネス登録サービスの活用」(25.1%)、「POSレジ」(22.3%)がトップ3を占めています。
さらに、どのツールも10%前後の飲食店経営者が導入を検討しているため、今後も多様なデジタルツールが飲食店のオペレーションに取り入れられると予想されます。
経営者が現在抱えている課題についての調査結果では、1位が「売上UP」(48.0%)、2位が「食材費の削減や最適化」(31.9%)、3位が「人手不足」(22.5%)という順位でした。新型コロナウイルス感染症の分類が5類に移行してからは、顧客の獲得よりも、店舗運営やコスト管理といった課題の重要性が高まっていることが浮き彫りになっています。
また、飲食店におけるキャッシュレス決済の利用率は、新型コロナウイルス感染症が確認された2020年初頭から増加傾向にあり、2024年1月時点で過去最高の43.3%を記録しました。
このように飲食業界では徐々にDX化が進んでおり、今後もCRISPのようにDXを推進する企業のさらなる活躍が期待されます。
企業概要
- 企業名:株式会社CRISP
- 代表者:代表取締役 宮野浩史
- 設立:2014年7月1日
- 所在地: 〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-10-5 KDX虎ノ門一丁目 11F WeWork内
- 公式HP:https://corp.crisp.co.jp/
- 売上その他データ:https://corp.crisp.co.jp/openness/
まとめ
本記事では、独自のDX手法である「クリスプメソッド」を活用し、カスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS」を運営する株式会社CRISPについて紹介しました。
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