
酵素は食品・化学・医薬品・環境など、多様な産業で活用されています。しかし、その開発には膨大な時間とコストがかかり、従来は偶然の発見に頼る側面が強いものでした。
この課題を解決するのが、東京工業大学発のスタートアップ「digzyme」です。同社はバイオインフォマティクス(生命科学×データ解析)と機械学習を活用し、短期間で目的に合った酵素を特定・改良する技術を開発。さらに、産業向けの酵素ライブラリの構築や、企業向けの酵素開発コンサルティングにも取り組んでいます。
本記事では、digzymeの技術、事業展開、そして今後の市場成長について詳しく解説します。
事業内容:バイオインフォマティクスを活用した酵素開発

digzymeは、バイオインフォマティクス(生命科学×データ解析)を活用し、酵素の探索・改良を効率化する技術を提供する東京工業大学発のスタートアップです。
従来、酵素の開発は偶然性に頼る部分が大きく、時間とコストがかかるプロセスでした。これに対し、digzymeはデータ解析と機械学習を活用することで、特定の目的に適した酵素を迅速に特定・最適化できるソリューションを展開。現在、食品・化学・医薬品・環境分野など、さまざまな産業で酵素の活用が進んでいます。
従来の酵素開発の課題:偶然に頼る開発プロセス

新しい酵素を開発するには、まず目的に合った酵素の遺伝子を特定する必要があります。しかし、従来の方法では自然界の微生物を培養し、その中から有用な酵素を偶然見つけるという手法が主流でした。そのため、新しい酵素を見つけるまでに長期間の試行錯誤が必要で、開発コストも高くなっていました。
digzymeの技術とアプローチ:データ解析と機械学習で効率化

そこで、digzymeは、バイオインフォマティクスと機械学習を組み合わせることで、短期間で目的に適した酵素を特定・最適化する技術を開発しました。このアプローチにより、従来の試行錯誤に頼る方法と比べ、酵素の探索や改良を劇的に効率化しています。
また、現在開発中の「digzyme Designed Library」では、これまでに設計された産業用途向けの酵素を蓄積し、企業が必要とする酵素を迅速に活用できる仕組みを構築中です。
情報解析プラットフォーム「digzyme Moonlight」と「digzyme Spotlight」

digzymeは、酵素の探索・改良を効率化するために、以下の2つの情報解析プラットフォームを開発しています。
- digzyme Moonlight:酵素のバイオ合成経路を探索し、目的の化合物を生産するために最適な酵素を特定するプラットフォーム。逆合成解析技術を活用し、新たなバイオプロセスの設計を支援します。
- digzyme Spotlight:機械学習を活用し、酵素のアミノ酸配列を基に活性や耐熱性などの特性を予測・改良するプラットフォーム。従来のランダム変異誘導法と比較して、効率的な酵素改良を可能にします。
これらのプラットフォームにより、企業はより短期間で高機能な酵素を開発することが可能です。
酵素開発コンサルティング
digzymeは、酵素の探索・改良だけでなく、酵素を活用した新規事業の開発支援も行っています。
たとえば、バイオプロセスを用いた新規事業の立ち上げ、石油化学由来製品のバイオ化、既存の生産プロセスのバイオテクノロジー導入など、企業が抱える課題に対して、バイオインフォマティクスを活用した最適なソリューションを提供しています。
資金調達:2024年4月シリーズAラウンドにて7.3億円を調達

2024年4月23日、digzymeはシリーズAラウンド(1st & 2nd close)で総額7.3億円の資金調達を実施しました。本ラウンドでは、第三者割当増資を中心に、融資およびNEDOディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)STSフェーズの助成金を活用。
調達した資金は、産業用酵素の開発を加速し、より迅速に市場ニーズへ対応できる体制を構築するために活用されます。
産業用酵素市場と開発の課題
産業用酵素は、食品・化学・洗剤・繊維・バイオマスエネルギー・農業・医療・体外診断・研究など、多様な分野で利用されており、今後も市場の拡大が期待されています。特に、化学合成の代替技術として「酵素法」(無細胞系・セルフリー系)の活用が進みつつあり、環境負荷低減や製造コスト削減などのメリットから注目が高まっています。
一方で、従来の産業用酵素の開発は天然の微生物を培養し、そこから適した酵素を見つけ出す手法が多く、トライアンドエラーを繰り返すことで開発が進められていました。そのため、新たな酵素の商業化には基礎研究・生産開発・量産開発を合わせて5〜10年を要することもあり、市場ニーズの変化に迅速に対応することが難しいという課題がありました。
digzymeの取り組みと今後の展開

digzymeは、独自の情報解析技術を活用し、従来の約1/4の期間で酵素を特定することに成功しました。そこで次のステップとして、今回の資金調達を活用し、特に産業用酵素の実用化を目的とした高機能な酵素ライブラリ「digzyme Designed Library」の構築を進めています。
このライブラリには、食品・化学・洗剤・バイオ燃料などの産業分野に適した酵素が集約される予定です。企業は、このライブラリを活用することで、従来の開発プロセスを短縮し、より迅速に最適な酵素を選定することが可能になります。また、酵素の試験や適用範囲の探索が容易になるため、開発コストの削減や新規事業創出の機会も広がると期待されています。
また、同社はすでに食品業界向けの体制を構築し、事業会社との連携を開始。今後は、新規の酵素プロダクトをより手軽に試験できる環境を整え、企業のアプリケーション開発を促進する方針です。
市場規模:工業用酵素の市場規模は2028年に102億ドル規模へ

工業用酵素市場は今後も拡大が見込まれています。グローバルインフォメーションの調査によると、2023年に74億米ドルだった市場規模は2028年には102億米ドルに達し、予測期間中に年平均成長率(CAGR)6.6%で成長すると予測です。この市場成長の背景には、エコフレンドリーな慣行の浸透や、食品・飲料産業やバイオ燃料製造、繊維加工など多様な分野での酵素の活用が進んでいることが挙げられます。
市場を牽引する要因
工業用酵素の需要が拡大している要因の1つは、環境負荷の軽減に対する意識の高まりです。酵素は従来の化学プロセスよりも低エネルギーで作用し、生分解性を持つため、企業の持続可能性目標にも合致しています。
食品業界では、発酵や食感の向上、保存期間の延長などに酵素が活用されており、特に食品の品質向上や官能特性の強化に貢献。バイオ燃料の分野では、農業廃棄物からエタノールを生産する際に不可欠な技術として、酵素加水分解の利用が拡大しているそうです。
また、洗剤産業における酵素の活用も市場成長を支えています。プロテアーゼはタンパク質汚れを効果的に分解することから、洗濯洗剤や食器用洗剤に配合され、洗浄力の向上に貢献。さらに、動物飼料においても、タンパク質の消化率を高める目的でプロテアーゼが活用されており、畜産や水産養殖業界の成長とともに、その需要が増加しています。
市場成長を支える地域動向
工業用酵素市場は、特にアジア太平洋地域での成長が期待されています。中国やインドでは人口増加に伴い食品需要が拡大しており、食品加工産業における酵素の利用が進んでいます。
繊維業界では、バイオ研磨やサイズ剤除去などの工程に酵素が活用され、製品の品質向上や環境負荷の軽減に貢献しているそうです。バイオ燃料の需要が高まるこの地域では、再生可能エネルギーの生産効率向上のためにも酵素の導入が進んでいます。
工業用酵素の将来展望
工業用酵素は、持続可能な製造技術として幅広い産業で活用が進んでいます。特に、食品・飲料、バイオ燃料、洗剤、繊維といった分野での需要が引き続き成長し、市場規模のさらなる拡大が期待されます。今後は、より耐久性の高い酵素の開発が進むことで、適用範囲がさらに広がり、新たな市場の創出につながるでしょう。
企業概要
- 企業名:株式会社digzyme(ディグザイム)
- 代表者:代表取締役 渡来 直生
- 設立:2019年8月26日
- 所在地: 〒105-0001 東京都港区虎ノ門二丁目2番1号 住友不動産 虎ノ門タワー6 階 Room4
- 事業内容:
- バイオインフォマティクスによる酵素開発
- 化合物生産及び分解のバイオプロセス開発
- 公式HP:https://www.digzyme.com/
まとめ
本記事では、バイオインフォマティクスを活用して酵素を開発する株式会社digzymeについて紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
株式会社digzymeのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。