地球規模で広がる食糧危機や、気候変動による深刻な環境問題は、私たちの日常生活に大きな影響を与え始めています。特に増加する人口を支えるためのタンパク質生産は、森林破壊や温室効果ガスの大量排出を引き起こし、地球環境に多大な負荷をかけています。従来の畜産や漁業ではサステナブルにタンパク質を供給するのは難しく、このままでは問題はより深刻になってしまうでしょう。
そんな中、次世代のタンパク質生産として注目を集めているのが、北大発のスタートアップ「Floatmeal株式会社」(以下、Floatmeal)です。同社は未来の食糧危機に立ち向かうべく、高たんぱく質で栄養価の高い「ウォルフィア」(ウキクサの一種)の生産技術を開発しています。
ウォルフィアは非常に少ない農地・水で生産でき、短期間で大量に繁殖するため、環境負荷が小さく低コストで大量生産が可能です。2024年の「すごいベンチャー100」に選ばれるなど、ますます注目を集めるFloatmealについて紹介していきます。
事業内容:ウォルフィアの安定生産技術を開発
Floatmealの事業内容は、ウキクサの一種である「ウォルフィア」の安定生産技術の研究開発です。
Floatmealによると、ウォルフィアは牛肉や大豆、卵よりも1gあたりのタンパク質含有量が高く、大豆と比べて、水使用量を230分の1、土地利用を63分の1に削減できるそう。また年中2日に1回収穫ができるほど、ウォルフィアは短期間で大量に繁殖する特性を持つため、たんぱく質1kg当たりの生産コストが他の農産物・食品より極めて低く、低コストで大量生産が可能と述べています。
地球温暖化・食糧危機への対策として、まさにうってつけの植物性タンパク質といえるでしょう。
三友環境総合研究所と提携し本格的生産の実証を開始
Floatmealは2024年6月10日に、株式会社三友環境総合研究所とウォルフィアの生産・加工に関するパートナーシップ提携をしました。
「廃棄物は未来の資源」と位置づけている三友グループに深く賛同し、共同実験を行うことで廃棄物の明るい未来を創造できると確信。共同実験を提案し、今回のパートナー提携に至ったそう。
今後は北海道勇払郡安平町に設置した生産拠点「Abira Laboratory」にて、ウォルフィアの大量生産技術の開発を目指すとのこと。2社は食品用途だけでなく、排水処理技術の開発、脱炭素システムの構築も視野に入れています。
起業のきっかけ:学内の国際的なビジネスコンテスト
Floatmealの共同創業者でありCEOの北村 もあな氏は、元々父の仕事の関係でニュージーランドに生まれ、オーストラリアで中学2年生まで過ごしました。その中で海洋や水産の研究に興味を持ち、北海道大学に進学し、海洋生態系について研究します。
そんな中、学内で開催されていた国際的なビジネスコンテストの予選会にて優勝を果たしたチームがあり、その中心メンバーであった留学生のサジャッド氏(Floatmeal共同創業者)と邂逅。彼を通じて、北村氏は「ウォルフィア」という植物について初めて知ることになります。
最初はメンバー紹介や活動内容をまとめたスライドを作成するなど、小さなサポートからチームに関わり始めました。その後、さまざまな助成金に応募するために、研究成果や会社のビジョンを日本語に翻訳する作業を通じて、「ウォルフィア」が気候変動の解決にどのように貢献できるのかを深く理解していきます。
やがていくつかの助成金を獲得し、周囲からの評価も高まる中で、活動がますます楽しくなり、気づけば彼女自身が起業し、CEOとして会社を率いるようになっていたとのこと。
市場規模:代替タンパク質の世界市場は2035年に4.9兆円へ
株式会社矢野経済研究所は、2022年の代替タンパク質市場がメーカー出荷金額ベースで約6395億円と推定しており、2027年には約1兆7220億円、2035年には約4兆9064億円に達すると予測しています。
市場の成長が堅調に進む理由として、以下の要因が挙げられるそう。
- 植物由来肉の成長 アメリカや欧州など、すでに一定規模の市場を持つ地域では、引き続き市場が拡大していくと考えられています。さらに、アジア圏では健康志向の高まりとともに、技術の進歩も進んでおり、今後の成長が期待されているとのこと。実際に日本では、小売店舗での販売拡大や冷凍食品のラインナップ充実、外食メニューへの導入が進み、消費者の認知度が向上しています。また、JAS規格の制定やSNSを活用したマーケティングも市場拡大の要因となるでしょう。
- 培養肉の普及 培養肉に関しては、シンガポールで2020年12月に初の上市が行われ、2023年6月にはアメリカでも生産・販売が認可されました。アメリカやシンガポール、イスラエル、欧州、日本を中心に、スタートアップ企業が研究開発を進めています。生産コストの高さが課題であるものの、効率的な生産技術の開発が進んでおり、コスト低減が達成されれば市場のさらなる拡大が見込まれるでしょう。
市場トレンド:代替タンパク質としてウォルフィアが注目
ウキクサは単純な構造を持つ成長の早い水生植物で、排水処理や動物飼料、人間の食料など、さまざまな分野で利用されています。実際に2022年の論文では、ウキクサ、特にその1種であるウォルフィアは、人間のタンパク質源として大きな可能性を秘めていると報告されました。
ウォルフィアに注目するスタートアップは数社あり、イスラエルのGreenOnyxはその1社。同社が開発する「Wanna Greens」は、2023年11月にNASAの承認を受け、SpaceXにより国際宇宙ステーションに打ち上げられた、初めてのウキクサ植物となりました。
また2021年創業のシンガポール企業Biovolfは、流水と電気を使用して二酸化炭素を吸収しながらウォルフィアを生産する独自バイオリアクター「Biovolf 4」を開発しています。
他にもタイのAdvanced Greenfarmは、消費者向けのウォルフィア製品「flo」を、タイ国内のスーパーやオンラインで販売中です。
スイスのLemna Proもウォルフィア用のカスタマイズされた水耕栽培システムを開発しており、ドイツのGEAと提携しています。
このように代替タンパク質の技術開発は世界中で進んでおり、今後のさらなる活躍に期待です。
企業概要
- 企業名:Floatmeal株式会社
- 代表者:CEO 北村もあな
- 設立:2023年5月25日
- 所在地: 札幌市白石区東札幌5条1丁目1-1 札幌市産業振興センター Sapporo Business VILLAGE
- 公式HP:https://ja.floatmealjp.com/
まとめ
本記事では、「ウォルフィア」の安定生産技術の開発・生産販売を行うFloatmeal株式会社について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
Floatmeal株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。