日本では少子高齢化が進む中、労働力の不足が深刻な問題となっています。そのため、近年、海外から優秀な人材を採用し、国内の人手不足を補おうとする動きが加速してきました。
しかし、グローバルに人材を採用するには、現地に法人を設立する必要があるため、多大な手間とコストがかかります。また、採用した国の労働法や規制に対応しなければならないため、企業にとっては高いハードルとなっています。
そこで、このような課題を解決する手段として、近年注目を集めているのが「EOR(Employee of Record)」というサービスです。そして、このEORサービスを提供するHRテック企業の中で、特に注目されているのがユニコーン企業である「Remote」です。
Remoteのビジョンは「Talent is everywhere — opportunity is not.(優秀な人材を、どこでも雇用できる未来へ)」というもので、世界中の才能ある人材に雇用の機会を提供することを目指しています。同社のサービスを活用すれば、企業は法人を設立することなく、各国の法規制に準拠しながら、迅速に人材を採用することが可能です。
企業のグローバルな人材採用を支援する、新しいソリューションとして注目を集めるRemoteについて、事業内容やサービスの特徴について解説していきます。
事業内容:EORプラットフォーム「Remote」を提供
Remoteは、EORプラットフォーム「Remote」を開発・提供しています。
そもそも「EOR」とは「Employer of Record」の略であり、現地海外法人を設立することなく、海外の人材を採用することができる仕組みです。この仕組みの最大の魅力は、オフィス設置の手間をかけずに世界中から優れた人材を採用できる点にあります。
具体的には、EOR事業者が企業に代わって現地での「法的な雇用主」となり、すべての雇用実務を代行します。たとえば、入社手続きやビザサポート、給与計算、税金の支払い、福利厚生など、あらゆる人事労務業務をアウトソースすることが可能です。
そのため、企業は現地法人を設立する際の多大な手間やコストを削減できるとともに、国ごとの異なる法制度や給与基準、福利厚生、ストックオプションの設計といった複雑な要件への対応も任せることができます。
また、「人材派遣とは異なる」という点も、EORサービスの重要なポイントです。EOR事業者は企業に人材を紹介するのではなく、企業が選んだ人材の雇用手続きと実務のみを代行します。そのため、企業は採用した人材を自社の社員として迎え入れ、直接マネジメントすることができます。
このように、海現地法人を設立することなく、世界中から優秀な人材を自社チームの一員として迎え入れることが可能になるのがEORサービスです。
「Remote」の優位性:グローバル雇用に必要な機能を1つのプラットフォームに統合
Remoteが提供するEORプラットフォーム「Remote」は、給与計算や福利厚生、労働法の対応など、グローバルな人材雇用に必要なすべての機能を1つにまとめた点で、従来のEORサービスと一線を画しています。
従来のEORサービスでは、国ごとに異なる給与システムが必要とされ、管理が複雑でした。しかし、Remoteでは、日本を含む各国での雇用管理を1つの統合プラットフォームで完結できます。 さらに、Remoteは100カ国以上に自社法人を設立し、各国の労働法や給与制度の知識を自社開発のソフトウェアに組み込むことで、どの国でも一貫した高品質なサービスを提供しています。
これにより、従来の半分以下のコストで、グローバル人材の採用がわずか30分以内に可能となりました。また、現地パートナーに頼らず、自社で各国の専門人材を雇用することで、どこでも同じ品質のサービスを提供できる体制を整えていると、RemoteのCEOであるJob van der Voort(ヨブ・ファンデルフォールト)氏は強調しています。
グローバルHRプラットフォーム「Remote」が日本でもサービスを開始
Remoteは、2024年11月13日より日本市場でサービス提供を開始したことを発表しました。同社は、世界各国の人事業務をワンストップでサポートすることで、日本企業が現地法人を設立せずとも効率的に新市場へ進出できるよう支援するとしています。
すでに、日本国内ではウーブン・バイ・トヨタ株式会社、みずほ証券株式会社、株式会社グロービス、JCRファーマ株式会社、スマートニュース株式会社といった企業がRemoteのサービスを利用。海外エンジニアの採用や、海外拠点での経営人材の雇用、グローバル人材のリモート雇用など、企業の多様な採用・雇用ニーズに対応しています。
RemoteのCEOであるJob van der Voort(ヨブ・ファンデルフォールト)氏は、「日本市場への参入にあたり、私たちは「謙虚さ」を重視しています。多くの日本企業にとって、EORという概念はまだ新しいものです。そのため、まずはグローバル展開を目指す企業と協力し、成功事例を積み重ねていきたいと考えています」と述べています。
資金調達:2022年4月にシリーズCラウンドで3億ドルを調達
Remoteは2022年4月5日に、シリーズCラウンドで3億ドル(約300億円)の資金を調達したことを発表しました。この資金調達は、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2が主導し、Accel、Sequoia、Index Venturesなどの既存の投資家も参加しています。
この資金調達が行われた背景には、Remoteの急速な成長があります。具体的には、世界的にEORサービスを提供する企業が増える中で、Remoteは1年間で従業員数を900%も増加させ、年間の経常収益も13倍以上に伸ばしました。
さらに、RemoteはシリーズBラウンドで1.5億ドルを調達し、ユニコーン企業の地位を確立してからわずか8か月後にシリーズCラウンドを実施。これにより、これまでの総調達額は4.95億ドルに達し、企業の評価額は約30億ドルとなりました。
市場規模:EORサービスの世界市場は2028年には100億ドルへ
各国で人材不足が深刻化する中、企業は海外の優秀な人材を確保し、自社の事業をグローバルに展開するために、EORサービスに注目しています。
そのため、EOR市場は拡大傾向にあり、IEC Groupの調査によると、2023年時点で約48億ドルだったEORサービスの世界市場は2028年には約100億ドルに達する見込みです。
主要なEOR事業者には、DeelやOyster、Papaya Global、Remote、Globalization Partnersなどがあります。
EORサービス各社の差異化戦略
2024年1月以降、Borderless AIなどの新興サービスが相次いでベンチャーキャピタルから資金を調達し、事業拡大を図るなど、競争が激化しています。EORサービス自体の内容では、現地法人を持つ国の数(カバレッジ)以外に大きな違いはあまり見られません。そのため、各社はサービスの領域拡大・福利厚生サービスの強化を通じて、他社との差別化を図っています。
たとえば、Deelは人材開発プラットフォームZavvyを買収し、学習やパフォーマンス管理機能を持つタレントマネジメント製品「Deel Engage」を提供開始しました。また、Remoteは2024年6月にOliverと提携し、リモートで雇用されている社員のメンタルヘルスをサポートするコーチングやセラピーサービスを開始しました。
さらに、最近ではアジア市場への進出を目指す日本企業を主要なターゲットとする、日系EOR事業者も増えてきています。これらの事業者は、バイリンガルスタッフを活用して、顧客企業とリモートで雇用される外国人材とのコミュニケーションを支援しています。また、アウトソーシングサービスの一環としてEOR事業を展開する人材紹介会社も存在します。
企業のニーズに応じた多様なEORサービスが提供されることで、日本国内での導入事例が増加し、サービスの利用がさらに広がるでしょう。
日本の概況:事業成長・海外展開を阻む人材不足とEORによる解決策
日本の労働人口は今後も減少が続く見込みで、リクルートワークス研究所によると、2040年には約1100万人の労働力不足が予測されています。既に人手不足は深刻で、帝国データバンクによると、2024年上半期には人手不足による倒産件数が過去最多を記録しました。
特にスタートアップ企業では、人材採用が成長を制限する最大の課題となっています。過去10年間でスタートアップへの投資額は10倍に増加しました。しかし、その多くは人材確保の壁に直面しており、グローバル展開の大きな障害となっています。実際、日本のスタートアップの82%が海外展開に至っておらず、その主な理由の1つが人材確保の難しさだと報告されています。
この課題を解決するために、日本企業はグローバルな人材採用に目を向けています。IDCの調査によると、日本企業の85%が今後12~18ヶ月以内に海外人材をリモートワークで正社員として採用する計画を持っており、これはアジア太平洋地域でも最も高い水準です。また、Remoteによると、37%の企業が国際的な業務委託による採用を検討しており、場所にとらわれない柔軟な採用・雇用形態への移行が進んでいます。
しかし、グローバルな人材採用には大きな課題も存在します。実際、海外採用に取り組む企業の54%がコンプライアンス上の問題に直面しており、その対応コストは1社あたり平均で約867万円(約56,653ドル)と推計されています。さらに、61%の企業が複数のHRツールを使用せざるを得ない状況にあり、採用から雇用管理に至るまでの業務効率化が急務です。
このように、日本は深刻な人材不足に直面しており、事業の成長や海外展開を妨げています。これが、グローバルな人材採用を支援する手法としてEORサービスが注目されている理由であり、今後、日本国内でのEORサービスの利用はさらに増加するでしょう。
創業者プロフィール
Remoteの共同創業者兼CEOであるJob van der Voort(ヨブ・ファンデルフォールト)氏は、アムステルダム大学(University of Amsterdam)で認知神経科学の修士号を取得しました。研究員としての経験を経て、オランダのソフトウェア企業でエンジニアとして活躍。その後、2013年に起業を果たしました。GitLabではサービスエンジニアとしてキャリアをスタートし、リーダーシップ職を歴任。最終的には、プロダクト担当副社長(VP of Product)として重要な役割を担いました。2019年にRemoteを共同設立し、現在CEOとして企業を率いています。
次に、Remoteの共同創業者兼PresidentであるMarcelo Lebre(マルセロ・レブレ)氏は、ポルトガルを拠点にグローバルなテクノロジー企業で豊富な経験を積んできました。言語翻訳テクノロジー企業Unbabelでは、エンジニアリング部門の副社長(Vice President)として組織の成長期を牽引しました。その後、複数のスタートアップ企業で最高技術責任者(CTO)を務め、技術戦略の立案から実行まで幅広い経験を積んできました。2019年にRemoteを共同設立し、現在はPresidentとして企業の運営を担当しています。
企業概要
- 企業名:Remote
- 代表者:CEO/共同創業者 Job van der Voort(ヨブ・ファン・デル・フォールト)
- 設立:2019年
- 所在地: San Francisco CA
- 公式HP:https://remote.com/ja-jp
まとめ
本記事では、革新的なEORプラットフォーム「Remote」を提供するRemoteについて紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
Remoteのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。