地球温暖化が深刻化する現代、これまでのように大量のエネルギーを消費して一時的な涼しさを得るだけでは、私たちも地球も限界を迎えてしまいます。
この問題の解決策として注目されているのが、SPACECOOL株式会社です。
同社は、宇宙空間へ熱を放出することでゼロエネルギーでの冷却を可能にする放射冷却素材「SPACECOOL」を開発・販売しています。この技術を通じて、脱炭素社会の実現に貢献することを目指しています。
本記事では、同社の事業内容・市場規模等について詳しく説明していきます。あなたの会社にも役立つヒントが見つかるかもしれません。
事業内容:SPACECOOLの放射冷却技術
SPACECOOL株式会社は、放射冷却を利用した技術を使って、直射日光の下でもゼロエネルギーの冷却を実現しています。
自然界の放射冷却現象
放射冷却とは、地球上の熱エネルギーを光エネルギーに変換して宇宙に放出することで、地球上の熱が下がる現象で、夜間に気温が下がる原因の一つとしてよく知られています。
日中も夜間と同様、放射冷却現象は生じていますが、昼間は太陽光の入熱エネルギーが放射(熱ふく射)による放出エネルギーよりも大きいので、太陽光に照射されている金属やコンクリートなどの素材の温度は、外気温よりも上昇します。
放射冷却素材「SPACECCOOL」
放射冷却の技術を応用して開発されたのが、放射冷却素材「SPACECOOL」。
自然現象の放射冷却を活用し、熱を赤外線に変換して宇宙に放出することで、昼間でもゼロエネルギーの冷却を実現することができます。
SPACECOOLは屋外機器や建物など、地球温暖化による暑熱課題を抱える屋外ファシリティの表面に導入することで、冷却に必要なエネルギーの消費量を削減し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献します。
製品についての詳細は、公式サイトをご覧ください。
熱を宇宙に逃す日傘「SPACECOOL日傘」
SPACECOOL株式会社は、2024年3月に老舗傘メーカーのホワイトローズ株式会社とコラボしたクラウドファンディング企画で注目を集めました。
同企画で販売された「SPACECOOL日傘」は、放射冷却フィルムを用いた生地を使用しており、炎天下でも生地の表面温度を下げることができます。
同クラウドファンディングは目標金額100万円に対して592万1900円を達成し、大成功を収めました。
「SPACECOOL日傘」は現在でもオンラインショップで購入可能です。
創業ストーリー
研究から実用化まで
放射冷却素材「SPACECOOL」の開発は、代表取締役CEOの末光氏の熱心な研究から始まりました。2012年に大阪ガスに入社した末光氏は、翌年から光工学を使った熱輻射のコントロールに取り組み始めました。その研究を通じて、地球温暖化対策の一環として熱を地球から発散させることを目指し、2016年には放射冷却素材のコンセプトを着想。その後、2017年に研究テーマとして本格化させました。
放射冷却素材は、日中でも対象物を外気温よりも冷却するという革新的な技術であり、当初は割れやすいガラス素材を使って原理実証が行われましたが、実用化には数多くの課題がありました。直射日光下でも使用できる素材を実現するためには、しなやかさ、対象物への貼付性、耐久性という3つの要件を満たす必要がありました。末光氏は光工学の専門知識を活かしつつ、材料工学や量産化の経験を持つ専門家や社内外のキーパーソンと連携して、最終的に実用化に成功しました。
創業からこれまで
この革新的な素材を広めるため、大阪ガスはベンチャーキャピタルのWiLと連携し、2021年に「SPACECOOL株式会社」を設立。スタートアップとしてのスピード感を重視するため、大阪ガスの出資比率は50%未満に抑え、子会社化せず独立した形で新たな一歩を踏み出しました。
末光氏は2023年12月に大阪ガスを退職し、2024年4月にはSPACECOOL株式会社のCEO兼CTOに就任。新たな役職で、「覚悟を決めて臨む」と意気込んでおり、これからの事業展開に大きな期待がかかっています。
資金調達:プレシリーズAラウンド及びシリーズAラウンドで約9億円の資金調達
SPACECOOL株式会社は、2025年1月にプレシリーズAラウンド及びシリーズAラウンドで約9億円の資金調達を実施しました。
同社はプレシリーズAラウンドで、既存投資家であるWiLと大阪ガス株式会社に加え、三菱HCキャピタル株式会社から資金調達を行いました。
シリーズAラウンドでは、未来創生3号ファンドと三井住友海上キャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施しました。
今回の資金は、海外での事業展開や更なる研究開発、組織体制・事業基盤の強化に充てられる予定です。
SPACECOOLがプレシリーズAラウンド及びシリーズAラウンドで総額9億円の資金調達を完了 さらなるグローバル展開の拡大により「世界に木陰の涼しさを」届ける
市場規模:世界の放射冷却市場は約3500億ドル
Spherical Insightsの調査によると、世界の放射冷却技術市場規模は、2023年に約3500億ドルと評価されました。
また、2023年から2033年にかけて年平均成長率(CAGR)9.37%で成長し、
2033年には約8700億ドルに達すると期待されています。
大阪・関西万博にて「SPACECOOL」が採用見込み
SPACECOOL株式会社は、2025年に開催される大阪・関西万博において、一般社団法人日本ガス協会が出展するガスパビリオンに、放射冷却素材『SPACECOOL』を活用した膜材料が採用される予定です。
このように、世界から注目を集めるSPACECOOL株式会社に今後も目が離せません。
会社概要
会社名:SPACECOOL株式会社(英語名 SPACECOOL INC.)
所在地:〒105-6404 東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 4階 ARCH内
設立:2021年4月1日
代表取締役CEO:末光 真大
まとめ
本記事では、宇宙に熱を逃がしゼロエネルギーの冷却を実現するスタートアップSPACECOOL株式会社について紹介してきました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
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