最終更新日 24/09/26
国内スタートアップ

【Symbiobe】光合成生物を生かして”空気”を資源に!環境問題に取り組む京大発スタートアップ

サステナブル大学発農業
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光合成生物の培養プラント(引用:Symbiobe公式HP)

産業活動によって排出される二酸化炭素を回収し、有効に活用する技術「CCU(Carbon Capture & Utilization)」が近年注目を集めています。この技術は、カーボンニュートラルの実現に大きく寄与することが期待されていますが、CCUから生み出されるプロダクトの選択肢がまだ限られているのが実情です。

そこで今回ご紹介する「Symbiobe株式会社」は、海洋性紅色光合成細菌を活用し、二酸化炭素や窒素を吸収(固定)しながら増殖させることで、環境問題に取り組みつつ、肥料や飼料、シルク繊維といった資源を生産しています。

京都大学発のスタートアップとして注目を集めるSymbiobe(シンビオーブ)について、さらに詳しくご紹介します。

事業内容:温室効果ガスから直接的に肥料や飼料を生成

大気中の温室効果ガスを海洋性紅色光合成細菌で飼料・肥料に活用(引用:Symbiobe公式HP)

Symbiobeの事業内容は、海洋性紅色光合成細菌を活用した温室効果ガス固定事業と、バイオマスを活用した資源生成事業の2つです。簡単に言えば、空気中の温室効果ガスを吸収して増殖する細菌を肥料などに応用することで、地球温暖化対策・資源生成を同時に実現しています。

“空気の資源化”を実現する「海洋性紅色光合成細菌」

二酸化炭素や窒素を固定して増殖する「海洋性紅色光合成細菌」(引用:Symbiobe公式HP)

Symbiobeの最大の特徴である”空気の資源化”の鍵を握るのが、「海洋性紅色光合成細菌」と呼ばれる細菌です。この細菌は大気や水中の二酸化炭素・窒素などを固定して増殖するため、温室効果ガスの削減につながります。

しかし、それ以上に特筆すべきは「窒素を大量に吸収する点」です。紅色光合成細菌は窒素を大量に含むため、肥料として非常に高い性能を誇ります。現在、日本では肥料の主成分であるアンモニアを多く輸入しており、その生成には大量のエネルギーが必要です。しかし、紅色光合成細菌は空気と日光で増殖し、肥料を作るため、これらの課題を解決できます。

加えて、この細菌は水産養殖の飼料にも利用可能です。現在、養殖魚は主に海外のイワシから作られる魚粉で育てられており、海洋資源の消費が問題視されていますが、紅色光合成細菌はタンパク質やアミノ酸が豊富で、代替飼料としても非常に有効です。

「京都大学発スタートアップ」という競合優位性

ラボで海洋性紅色光合成細菌を培養する様子(引用:https://xtech.mec.co.jp/articles/10502)

Symbiobeの現CEOである伊藤宏次氏は、光合成細菌の社会実装は容易ではないと述べています。そのため、十分な研究リソースが不可欠であり、大学発ベンチャーであるSymbiobeはこの点で優位性を持つと主張しています。

1つ目の優位性は、大量培養技術の確立です。紅色細菌を大規模に培養するケースは世界でも稀ですが、Symbiobeでは京都大学桂キャンパスのデモプラントを活用しています。プロトタイプ段階ではあるものの、このデモプラントは世界最大規模であり、蓄積されたノウハウが大きな強みとなっています。

2つ目は、遺伝子レベルでの操作技術です。光合成細菌は、これまで微細藻類と比べて遺伝子変異が難しく、研究のフォーカスが当てられにくいものでした。これに対し、CTOであり京都大学教授の沼田氏が、光合成細菌の遺伝子改変ツールを整備し、数年前から改変が可能になりました。

3つ目は、菌の開発です。光合成細菌、特に紅色細菌にはさまざまな種類が存在し、用途に応じた選抜とライブラリ化が重要です。Symbiobeはこの取り組みを他社に先駆けて進めており、先行者優位を確立しています。

資金調達:2024年9月にシリーズAとして8億円を獲得

引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000141898.html

Symbiobeは2024年9月12日に、シリーズAラウンドで第三者割当増資により総額8億円の資金調達を達成したと発表しました。これにより、同社の累計資金調達額は約10.7億円に達しています。

今後Symbiobeは、海洋性紅色光合成細菌の量産技術を早期確立・商業化するために、山口県に大規模な実証設備を建設する計画です。また、バイオマスの利用拡大に向けて、タンパク質繊維や農業用窒素肥料、水産養殖用飼料などの試作品を高品質化するための研究開発も進めていくとしています。

出資者・株式会社環境エネルギー投資
・出光興産株式会社
・Shimadzu Future Innovation投資事業有限責任組合
・三菱UFJキャピタル株式会社
・Beyond Next Ventures株式会社
・京都大学イノベーションキャピタル株式会社
・京都キャピタルパートナーズ株式会社
・山口キャピタル株式会社
資金調達の目的・光合成細菌培養プラントのスケールアップ
・バイオマス生産能力の拡大と、プロダクトのプレミアム化に向けた研究開発
・研究開発の推進に必要な研究員をはじめとする人材の獲得

市場トレンド:CCSやカーボンリサイクルが本格化

国内のCCUS技術によるCO2回収量の推移・予測(引用:矢野経済研究所)

政府が2050年のカーボンニュートラル実現を宣言したように、日本ではCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量削減に向けた動きが加速しています。

しかし、エネルギーの安定供給を考慮すると、再生可能エネルギーへの急速な転換は難しく、しばらく調整電源として稼働が想定される火力発電所からのCO2排出量の削減が課題です。

そこで、この課題に対処するため、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)技術の開発と実証事業が進められています。

矢野経済研究所の調査によれば、2022年度における日本国内のCCUS技術によるCO2回収量は60万トン/年でしたが、2050年度には1億4600万トン/年まで達する見込みです。

2024年2月には、「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)」が閣議決定されるなど、国内CCS事業は2030年以降の本格化に向けた整備が進められています。

企業概要

  • 企業名:Symbiobe株式会社
  • 代表者:CEO 伊藤 宏次
  • 設立:2021年1月8日
  • 所在地: 〒615-8245 京都市西京区御陵大原1-39 京大桂ベンチャープラザ南館
  • 公式HP:https://www.symbiobe.jp/

まとめ

本記事では、光合成細菌を活用して空気の資源化を実現するSymbiobe株式会社について紹介しました。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

Symbiobe株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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