日本では、医療費の高騰や医療従事者の負担増加など、医療システムに関わる様々な課題が浮き彫りになっています。このように医療従事者が多忙を極めている背景には、診療内容や治療経過などを詳細に記録する膨大な書類作業があるためです。
こうした医療現場の課題に対して、医療データを活用して解決を図ろうとしているのが「TXP Medical株式会社」(以下、TXP Medical)です。同社は、医療データを連携し、一元的に管理できるプラットフォームを提供し、医療従事者が効率的に業務を遂行できる環境を支援しています。
2024年10月に24億円の資金調達を達成するなど、業界内外から注目を集めるTXP Medicalについて、その具体的な事業内容や資金調達の背景について詳しく解説します。
事業内容:医療データをつなぐプラットフォームを展開
TXP Medicalは、「医療データで命を救う」というミッションのもと、急性期医療のためのプラットフォーム構築から医療データの活用に至るまで、幅広いサービスを提供しています。
同社の事業は主に2つの分野で構成されており、急性期病院や自治体向けの医療データプラットフォーム「NEXT Stageシリーズ」と、製薬企業やアカデミア向けにリアルワールドデータ(RWD)を活用したサービスです。
<TXP Medicalの事業概要>
- 医療データシステムの開発:救急や集中治療、救急隊向けに「NEXT Stage ERシリーズ」を提供
- がん診療支援データシステムの開発:がん治療を支援する「NEXT Stage Oncology」を展開
- 医療AI技術の開発:医療データ解析のためのAI技術を開発
- 医療データプラットフォームの構築:医療機関間でデータを共有しやすいプラットフォームを構築
- リアルワールドデータの解析:臨床データを活用し、医療研究や治療の向上を支援
- 臨床研究支援:臨床研究をサポートするデータサービスを提供
- 経営支援・コンサルティング:医療機関に向けた経営支援およびコンサルティングを実施
TXP Medicalの特徴は、病院内の電子カルテのように、個別に管理されている医療データをつなぎあわせて、全体で連携が取れる「コネクテッド・データ」を作り出す点です。これにより、救急や一般診療などの部門を越えて患者情報を一元管理し、医療現場における円滑な情報共有を実現します。
CEO園生 智弘氏のビジョン
CEOの園生氏は、医療現場において膨大な書類作業が医療スタッフに負担をかけており、患者に対するサービスの質を低下させていると指摘しています。
これに対し、現場で使いやすく二重入力が少ない記録システムや、他の医療機関と相互参照が容易な臨床データこそが必要だと強調。こうしたニーズに応えるため、TXP Medicalは現場に寄り添った技術を開発しています。
TXP Medicalの活用実績
同社の「NEXT Stage ER/ICU」システムは、国内の大学病院や救命救急センターなど79の大規模病院で稼働しており、救急隊向けの「NSER mobile」は全国42地域、1,000万人以上を対象に使用されています。
また、製薬企業向けの医療データ事業も進展しており、電子カルテから取得した構造化データや検査値を活用したリアルワールドデータ事業は、2024年から本格的に開始され、前年比400%以上の成長を達成。
特に、救急外来を基点とするNEXT Stageシリーズは、希少疾患の疾患啓発や臨床研究の促進にも役立っています。同社のリアルワールドデータは、幅広い疾患領域に対応しているため、今後さらなる成長が期待されています。
資金調達:2024年10月にシリーズCで総額24億円を調達
TXP Medicalは2024年10月23日に、シリーズCラウンドにて総額約24.6億円を資金調達したと発表しました。本資金調達は、MPower PartnersやNTTコミュニケーションズ株式会社、メディカル・データ・ビジョン株式会社を引受先とした第三者割当増資、および複数金融機関からの融資によるものです。
これにより、創業からの累計資金調達額は約40億円となりました。また、経営体制・ガバナンスの強化、生成AIを用いた事業の創出を推進するため、社外監査役としてAIガバナンス/アジャイルガバナンスの専門家である羽深宏樹氏が就任したと発表しています。
今回の資金調達で、TXP Medicalは次の事業強化に取り組む予定です。
- RWD(リアルワールドデータ)コンサルタントチームの強化
- 秘密計算や複数の医療施設間で統合できるデータベースの構築
- 生成AIを活用した医療記録(カルテ)テキストの分析機能の開発
なお、生成AIを利用したサービスを病院・自治体事業にも展開していくと発表しており、直近では医療用文書作成・救急外来でのAI音声入力などの業務支援サービスを複数リリース予定です。
<シリーズC資金調達の概要>
- 調達時期:2024年10月23日
- 調達方法:第三者割当増資・融資
- 資金調達額:24億円
- 主な投資家
- MPower Partners
- NTTコミュニケーションズ株式会社
- メディカル・データ・ビジョン株式会社
- 調達資金の用途
- ①既存事業の拡大
- 医療データプラットフォーム「NEXT Stage ER/ICU」の拡大
- 医療データ事業の拡大
- ②新規事業への投資
- 生成AIを用いた大病院・救急隊向けサービスの開発や展開
- ③採用拡大・組織強化
- グローバルな企業を目指した経営体制の強化
- 医療データ事業の持続的な成長のための人員増強
- IPOに向けた飛躍的な売上向上のためのマーケティング施策の実施
- ①既存事業の拡大
市場規模:医療ビッグデータ分析サービスは2027年に360億円規模へ
株式会社日本能率協会総合研究所 マーケティング・データ・バンクによると、医療ビッグデータ分析サービスの市場規模は、2027年に360億円に達すると予測されています。
医療ビッグデータ分析サービスとは、健康保険組合が持つ保険者データや、調剤に関するデータ、電子カルテのデータなど、医療機関や保険団体が集めた情報を分析・加工し、その結果を活用できる形にして提供するサービスです。新薬開発や承認申請の迅速化、コスト削減、疾病ごとの有病率・罹患率の把握に役立てられます。
このサービスは2000年代の初めから日本国内で提供され始めましたが、近年では、医療分野におけるIT技術の発展により、大量のデータを簡単に集めたり、効率よく解析・分析したりできるようになったため、特に注目されています。2017年5月には改正個人情報保護法が施行され、医療ビッグデータをより活用しやすくするための法律や規制も整備が進んでいます。
こうした関連制度の整備や、国が収集する医療データの利用範囲拡大が同市場を後押ししており、今後は医療ビッグデータの更なる蓄積・新たなサービスの開発により市場が拡大する見込みです。
企業概要
- 企業名:TXP Medical株式会社
- 代表者:代表取締役 園生 智弘
- 設立:2017年8月28日
- 所在地: 神田オフィス(本店) 〒101-0042 東京都千代田区神田東松下町41−1 H¹O 神田706
- 公式HP:https://txpmedical.jp/
まとめ
本記事では、医療データをつなぐプラットフォームを展開しているTXP Medical株式会社について紹介しました。
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