ケンブリッジ大学の研究チームが設立したスタートアップ「Wayve(ウェイブ)」は、自動車の自動運転を可能にするAI技術を開発・提供しています。
同社が開発する「AV2.0」という*Embodied AIは、カメラの映像などをもとに常に学習を行うので、高精度な地図データが用意されていない初めての道路でも自動運転が可能です。
※Embodied AIとは、ロボットや車両にAIを組み込む技術のこと。人間のように感覚器官を持ち、自ら学習して環境の変化に適応するロボットを実現することで、複雑な環境にも対応しようとする試みです。
2024年5月にはソフトバンクグループ主導で、米MicrosoftやNVIDIAなどから、シリーズCラウンドとして10億5000万ドル(約1590億円)の資金調達に成功しています。
国内外の大企業や投資家から注目を集めるWayveについて、その事業内容や技術の特徴を紹介します。
Wayveが開発する自動運転技術「AV2.0」の魅力
Wayveは、従来の技術とは全く異なる新しい自動運転技術「AV2.0」を開発しました。
「AV2.0」の最大の特徴は、「マップデータがなくても自動運転ができる」「すべての車両からデータを収集してより深い学習ができる」という点です。
「AV2.0」ではエンドツーエンド(end-to-end)学習という最新のモデルが使われており、センサーで取得したデータをAIが1つの大きなニューラルネットワークで学習します。人間がデータを処理・学習させていた従来のモデルよりも、AIがより深く学習できるため、高精度の予測・結果を出力することが可能です。
また「AV2.0」には、Fleet-Learning(艦隊学習)という技術も使われています。同技術では、まず「AV2.0」が搭載されている車両やレーダーから、サーバーへデータを転送。すべてのデータをクラウド上で収集・学習し、その解析結果を各車両へフィードバックとして転送します。1つの車だけでは収集できない、より大規模なデータを扱えるため、より深い学習・高精度の予測が可能です。
最大の特徴:生成AIにあらゆる判断を任せる
AV2.0では、周囲の状況把握・あらゆる判断を生成AIに任せます。「〇〇〇な状況では△△△と動け」と人がルールを決めるのではなく、カメラなどのセンサーで集めたデータをAI自身に判断させ、適切だと思う運転操作を反映させるのです。
そのためAV2.0であれば、過去に別の状況で学んだことを初めての状況にも応用できます。また初めて訪れた都市で地図データがなくても、問題なく自動運転が可能です。
従来の自動運転技術であるAV1.0では、複数のディープニューラルネットワークを活用して車両の知覚能力を向上させていました。しかし、AV2.0では実世界の複雑な環境における迅速な意思決定を可能にするために、包括的なインテリジェンスが求められます。そこで基盤として、NVIDIAの最新ハードウェアとソフトウェアエコシステムを活用しています。
従来の自動運転技術「AV1.0」では処理に限界があった
AV1.0では、「あらゆることに対して個別の対応が必要」であることが大きな課題でした。
従来のAV1.0のアプローチでは、「どのような状況でどんな運転をするのか」をすべて人の手でコーディングする必要がありました。その結果、システムが大規模で複雑になり、メンテナンスに苦労するようになってしまったそう。
またAV1.0のもう1つの課題に、周囲の状況の把握に、高精度3次元地図(HDマップ)データが必要不可欠なことがあげられます。HDマップデータがない都市では安全な走行が難しいため、多くの都市に展開できない要因になっていたとのこと。
沿革:ケンブリッジ大学から始まりユニコーン企業へ
Wayveは2017年2月にケンブリッジ大学の自動運転研究グループによって設立されます。同社はこれまで、共同創業者・CEOであるAlex Kendallを中心に、AI技術を駆使した自動運転事業を中心に展開。
2019年2月には、イギリスの公道で自動運転車の走行に成功した初の企業になりました。さらにシリーズAにて2000万ドルの資金を調達し、ロンドンに本社を開設します。
2021年3月には、イギリス最大級の食料品小売業者であるOcado Group・Asdaとの業務提携を結び、都市での自動運転配送の試験を行うことが発表。
2022年2月には、異なる都市や車両タイプに合わせて運用できる、初のAI運転モデルを開発しました。さらにシリーズBで2億ドルの資金を調達し、カリフォルニア州マウンテンビューに2つ目のオフィスを開設。 また同時期に、Microsoftとのパートナーシップを拡大することも発表しました。
2023年には、年初めにビル・ゲイツをロンドンでのデモライドに招待。同年9月には自動運転向けの画期的なAIモデルであるGAIA-1とLINGO-1を発表しました。
2024年5月には、ソフトバンクグループをリードとしてシリーズCで10億ドル(約1590億円)の資金調達を実施に成功。ユニコーン企業になるまで成長を果たしました。
資金調達:ソフトバンクG主導でシリーズCにて約1590億円を調達
Wayveはこれまで複数回の資金調達を実施しており、2024年5月にはシリーズCラウンドで10億500万ドル(約1590億円)を獲得しました。
今回の資金調達では、ソフトバンクグループがリード投資家になり、既存投資家としてMicrosoft、新規投資家として米国の大手半導体メーカーNVIDIAも投資に参加しています。
Wayveは今回の資金を活用し、新領域の事業とパートナーシップの拡大を目指すそう。
市場規模:自動運転システム市場は2035年までに約2.6兆ドルまで拡大
SDKI.jpの「自動運転システム市場調査-予測2023-2035年」によると、2022年の世界の自動運転システム市場は2022年に約1260億ドル。
同市場は予測期間中に約39%の年平均成長を見せ、2035年までに約2.6兆ドルに達すると予測されています。
将来展望:世界100都市に自動運転車を走らせる
Wayveは、「100都市に自動運転車を走らせる最初の企業になる」ことを目指しています。
自動運転の研究開発で競争相手となる企業は、「Waymo」や「Cruise」など、世界中にたくさんあります。すでに複数都市で自動運転車を運用している企業も少なくありません。しかし、いずれの企業も自動運転をより大規模には展開できていない状況です。
Wayveは従来とは違ったアプローチで開発を進めることで、自動運転車を運用できる都市を一気に広げようとしています。
スタートアップ企業「Wayve」の開発する新たな自動運転技術アプローチ「AV2.0」を解説 – パロアルトインサイト/PALO ALTO INSIGHT, LLC.
会社概要
会社名:Wayve Technologies Ltd.
所在地:Headquarters, UK 230-238 York Way London, N7 9AG United Kingdom
設立年月日:2017年2月
代表:Alex Kendall
まとめ
本記事では、ロンドンを拠点にAI技術を駆使した自動運転事業を展開するWayveについて紹介してきました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
Wayveのように生成AIを扱う企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。