
物流業界は今、深刻な人手不足と労働規制強化という二重の課題に直面しています。そんな中、注目を集めているのがレベル4自動運転トラックによる幹線輸送です。
この領域で存在感を高めているのが、スタートアップの株式会社T2(以下、T2)です。同社は、単なる技術開発にとどまらず、自社で開発した自動運転トラックを用いて、物流企業や荷主企業の拠点間で貨物を運ぶ「運送事業そのもの」にも取り組んでいます。
自動運転の技術力と物流現場での実行力を併せ持つT2は、まさに“次世代の物流インフラを自ら走らせる”企業です。本記事では、同社の事業モデルや開発体制、そして2027年に向けた社会実装の展望に迫ります。
事業内容:レベル4自動運転トラックによる幹線輸送インフラの構築

T2は、深刻なドライバー不足という構造的課題を抱える物流業界に対し、レベル4自動運転トラックを用いた幹線輸送サービスの社会実装を目指すスタートアップです。
特徴的なのは、単なる技術開発にとどまらない点です。T2は、自社で開発した自動運転トラックを使い、物流企業や荷主企業の集約拠点間で貨物を輸送する運送事業も手がけています。つまり、T2はソフトウェア開発企業ではなく、自社技術を直接用いた物流インフラの提供者でもあるのです。
同社が構築する幹線輸送網は、高速道路など限定されたルートを活用することで、「集約拠点から集約拠点」へと荷物を運ぶBtoB型の長距離輸送に特化。これにより、宅配などのラストワンマイル領域ではなく、トラックによる大量輸送の中核部分における効率化と自動化を推進しています。
企業として掲げるビジョンは、「レベル4自動運転技術の活用により、世界最高水準である日本の物流を共に支える」ことです。テクノロジーの力で「モノが届く」という当たり前を守り、安全・効率・環境性を備えた次世代の物流インフラの構築を目指しています。
※レベル4自動運転とは、高速道路などの限定領域において、通常時も緊急時も含めてシステムがすべての運転操作を担う「高度自動化」のことを指します。
- レベル3:通常時は自動運転、緊急時はドライバー対応が必要
- レベル4:限定領域で完全にシステム運転(ドライバー不要)
- レベル5:あらゆる場所・状況で完全自動運転
最大の特徴:ドライバーに依存しない幹線輸送の実現

T2の最大の特徴は、物流の中核を担う「幹線輸送」の領域で、人手を介さずに自動運転による貨物輸送を可能にする点です。この取り組みによって、以下のような多面的な価値が社会にもたらされます。
- 安定供給の確保
- ドライバー不足による物流費の高騰や配給の不安定化を回避。長距離輸送を自動運転トラックが担うことで、現状の水準を維持した安定供給を実現します。
- 生産性の向上
- 人間のような労働時間制限がないため、車両は保守を除いて24時間稼働が可能。物流業務の稼働率と効率が飛躍的に高まります。
- 安全性の強化
- LiDAR(レーザー測距装置)やカメラを用いた高精度の物体認識技術により、ヒューマンエラーを抑えた走行が可能。事故リスクを大幅に軽減します。
- 環境への配慮
- アクセルやブレーキ操作を最適化することで燃費効率が向上。走行の安定化によってCO₂排出の削減にも貢献します。
技術的基盤:自動運転の社会実装を支える4つの中核技術
T2が提供する自動運転トラックは、単なるAI制御ではなく、自動運転に必要な高度なセンシング・判断・制御技術を統合した車両です。自社内で開発から実証運用まで一貫して行っているのが大きな特徴です。
- 物体認識
- LiDARやカメラによって周囲の物体を高精度に検知。センサーフュージョン技術を用いて、検知精度をさらに向上させています。
- 自己位置推定
- GNSS(衛星測位)、IMU(慣性センサー)、HDマップ(高精度地図)などを統合して、自車の正確な位置と周囲状況をリアルタイムで把握します。
- 指令判断
- 物体認識や位置情報をもとに、最適な進行ルートや加減速のタイミングを瞬時に判断。交通状況に応じた柔軟な運転を可能にします。
- 車両制御
- パワートレイン・ステアリング・ブレーキなどの制御をリアルタイムに行い、車両の安全な挙動を保ちます。試験車両を用いた実証実験も進行中です。
実装までの道のり:2027年度のサービス開始に向けた開発ロードマップ

T2は、自動運転サービスの早期社会実装に向けて、2023年から2026年までを「準備期間」と位置づけ、段階的に技術と制度対応を進めています。
- 2023〜2024年度:Lv2技術と遠隔監視システムの確立
- 有人自動運転の確立を目指し、Lv2技術(ドライバーが同乗し監視する自動運転)の実証や、遠隔監視システムの構築を進めています。
- 2025〜2026年度:無人運転技術の確立と認可取得
- 冗長化システムや緊急時退避操作の確立、加えて「特定自動運行」の国の認可取得を目指します。
- 2027年度:レベル4幹線輸送サービスの本格開始
- 遠隔監視型の無人自動運転車両による幹線輸送の実運用を開始し、商用サービスとしての展開を予定しています。
多様な業界との連携:社会実装に向けた強固なエコシステム

自動運転技術の社会実装には、技術開発だけでなく、インフラや通信、法制度、金融、物流オペレーションまでを網羅する幅広い支援体制が欠かせません。T2は以下のような企業・機関とパートナーシップを構築し、全方位型の実現体制を整えています。
<T2が連携しているパートナーシップ企業>
- インフラ整備:三菱地所、宇佐美鉱油
- 通信・遠隔操作:KDDI
- 物流オペレーション:大和物流、三井倉庫ロジスティクス
- 車両開発・AI技術:Preferred Networks
- 金融・保険支援:三井住友信託銀行、JA三井リース、三井住友海上火災保険
- プロジェクトマネジメント:三井物産
- 荷主企業:東邦アセチレン
- 経営支援:Value Chain Innovation Fund、紀陽キャピタルマネジメント、環境エネルギー投資
このように、T2は単なるスタートアップではなく、日本の物流インフラ全体を再構築する「総合プロジェクト」の中核を担う存在へと進化しつつあります。
資金調達:三菱地所から追加出資で合意

2025年3月19日、T2は2027年から開始するレベル4自動運転トラックによる幹線輸送に向けて、三菱地所株式会社から追加出資を受けることで同社と合意したと発表しました。これにより同社からの出資は計15億円に達し、2022年の会社設立以来、他社を合わせた資金調達の合計は63.2億円となります。

T2は、レベル4自動運転トラックによる幹線輸送を実現するにあたり、2023年に三菱地所と資本業務提携を締結しました。以降、両社は京都府城陽市などで開発している高速道路IC直結の「次世代基幹物流施設」において、有人運転と無人運転を切り替える拠点の整備を進めています。
さらに、物流効率の向上を目的として、建物内でトラックを走行させる仕組みの検証にも取り組んできました。今回の追加出資を契機に、両社の連携は一層深まり、シームレスな輸送の実現に向けた準備が加速しています。

レベル4自動運転トラックの現状と今後の展望

レベル4自動運転トラックの社会実装は、物流業界が直面する人手不足という課題を解決する切り札として、政府や産業界の注目を集めています。とりわけ高速道路を中心に、実証と実装のステージが急速に進みつつあり、今後10年間での大きな技術革新と市場拡大が見込まれています。
1. 現状:レベル4自動運転トラックの導入と課題
現在、日本におけるレベル4自動運転トラック(完全自動運転で特定エリア内で運行可能な車両)の開発と実証実験が進められています。特に政府や業界が注目するポイントは以下の通りです。
- 物流業界の人手不足解消
- 2024年問題(運転手の労働時間規制強化)により、トラック輸送能力の14.2%が不足するという試算があります。さらに、2030年には34.1%の輸送能力不足が懸念されており、これに対応するため自動運転トラックの導入が求められています。
- 高速道路での実装を優先
- まずは高速道路でのレベル4自動運転を実現し、長距離輸送の負担軽減を目指しています。政府は「デジタルライフライン全国総合整備計画」の一環として、高速道路の第一通行帯を自動運転優先レーンとする構想を検討しています。
- 技術的な課題
- センサー技術(LiDAR、カメラ)の精度向上
- インフラとの連携(信号機、通信環境の整備)
- 安全性確保(他車両との協調、自動ブレーキ技術の向上)
- コストの課題
- 自動運転システムの導入費用は依然として高額です。現在の試算では、2035年までに1台あたりの自動運転トラックのコストが大幅に削減される見込みですが、導入初期は運行コストが高くなるため、スケールメリットを生かした価格低減が求められています。
2. レベル4自動運転トラックの今後の展望

- 2030年までのロードマップ
- 2025年から本格的なレベル4自動運転トラックの実証が開始され、2030年までに商用化が進む見込みです。政府は民間企業と協力し、複数ブランドのトラックが協調して自動運転を行う「マルチブランド協調走行」の実証も進めています。
- 事業化と収益モデル
- 初期投資の高さが課題ですが、保守・メンテナンス収益の安定化が進めば、トラックメーカーや物流企業が採算を確保できるようになります。具体的には、1台あたりの運行コストを削減し、年商10億円規模の事業を支える仕組みを構築することが目標とされています。
- 市場規模の拡大
- レベル4自動運転トラックの市場は欧州・北米を中心に成長しており、日本も国際競争に参入するために開発を急いでいます。特に日本国内では長距離輸送の効率化が期待されており、2035年までに物流の基盤となる可能性が高いです。
3. レベル4自動運転トラック市場のまとめ
レベル4自動運転トラックは、物流の未来を支える重要な技術ですが、技術・コスト・インフラ整備などの課題が残っています。今後は、政府と民間が連携し、実証実験の成果を活かして商業化を進めることが求められます。特にT2のようなスタートアップがこの分野でどのような役割を果たすかが注目されます。
企業概要
- 企業名:株式会社T2
- 代表者:代表取締役CEO 森本 成城
- 設立:2022年8月30日
- 所在地:〒100-0011 東京都千代田区内幸町2丁目2−3 日比谷国際ビルヂング1階
- 事業内容:
- 自動運転システムの開発
- レベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービス事業
- 幹線輸送に付随した関連サービス事業
- その他関連サービス事業
- 公式HP:https://t2.auto/
まとめ
本記事では、レベル4自動運転トラックによる幹線輸送インフラの構築を行う株式会社T2について紹介しました。
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