
近年、日本の住宅業界では、人手不足や建築コストの上昇が深刻化しています。従来の住宅設計は設計士の経験に大きく依存しており、標準化や効率化が進みにくいのが現状です。その一方で、住宅メーカーには迅速で柔軟な提案が求められており、従来のやり方では対応が難しくなっています。
こうした状況を受け、株式会社Lib Work(以下、Lib Work)はMaket Technologies Inc.(本社:カナダ国のモントリオール、COO:Stepane Turbide)と提携し、AIを活用した住宅設計の効率化を推進。3Dデザインやコスト試算、エネルギー計算を一括で行う日本版生成AI住宅プラットフォームの開発を目指しています。
本記事では、Lib Workの事業内容や資金調達状況、市場の成長性などについて詳しく解説し、住宅業界のDXの展望について解説します。
生成AI住宅とは

生成AI住宅とは、AIを活用して自動で設計される住宅のことです。従来の設計とは異なり、AIが建築基準や土地の形状、顧客の要望をもとに、最適な間取りを瞬時に提案します。さらに、登録されたデザインパターンに基づき、自動で3Dモデルを生成することも可能です。
Lib Workは、豊富な住宅図面データとMaket Technologies Inc.(以下、Maket Technologies)のAI技術を組み合わせ、日本の建築基準や消費者ニーズに適した高精度なプランの自動生成を実現しています。
事業内容:日本版生成AI住宅プラットフォーム

Lib Workが提供する最大のサービスは、日本初の生成AIを活用した住宅設計の自動化プロジェクト「日本版生成AIプラットフォーム」です。
以下に、本システムの主要な特徴を紹介します。
- AIによる最適な間取りの自動生成:AIが建築基準や地域の規制を考慮し、最適なプランを短時間で複数提案
- フォトリアルな3Dデザイン:間取りと連動したリアルな3Dモデルを即時作成
- バーチャルアシスタントの設計支援:設計士や営業担当者向けに、AIがリアルタイムで最適な設計案を提案
- コスト試算と材料最適化:施工コストをリアルタイムで試算し、コスト削減を実現
Maket Technologiesとの協業理由

Lib Workは2025年3月26日、先進的な生成AI技術を有するMaket Technologiesと共同で、生成AIを活用した住宅設計の自動化プロジェクトを開始すると発表しました。協業理由として、以下の2点が挙げられます。
① 先進的な生成AI技術と実績
Maket Technologiesは、北米市場で建築設計に特化したAIプラットフォームを開発・運用しており、間取りの自動生成や3Dデザイン、コスト試算などの分野で高い技術力を持っています。実際にAIによる設計の精度が高く、北米の住宅業界で採用されており、業務の効率化に貢献しています。
② 日本市場向けの最適化
同社のAI技術は、世界最大のディープラーニング研究機関「Mila – Quebec AI Institute」との共同開発により開発されました。日本の住宅の規制や建築基準にも適応できる柔軟性を備えており、Lib Workの膨大な住宅設計データと組み合わせることで、日本市場に最適化されたAI設計プラットフォームを構築できると考えたとのこと。
資金調達:2024年2月に約11億円調達

2024年2月、Lib Workは一般募集と当社株式の売り出しにおいて、約11億円の資金調達を実施しました。
調達資金の主な使途としては、3Dプリンターを活用した住宅施工に向けた研究開発費や事業運営費として2億6,200万円、関東と九州圏内におけるインショップ型(商業施設内の区画に原寸大のモデルハウスを建築)店舗における建築費用として2億4,000万円などとしています。
市場規模:住宅業界は衰退するのか?市場縮小のリアル

以下では、近年日本の住宅業界が直面する様々な課題や変化を踏まえ、今後のあり方について解説します。
- 新築住宅市場の縮小:少子高齢化や人口減少により、新築住宅の需要は減少傾向にあります。国土交通省のデータによれば、2006年の新設住宅着工数は約128万戸でしたが、2021年には約86万戸にまで減少しています。
- リフォーム市場の拡大:既存住宅の価値を維持・向上させるためのリフォーム需要が高まっています。特に、耐震補強や断熱改修、省エネ対策を目的としたリフォームが増加しており、住宅の長寿命化が進んでいます。
- 環境問題への対応:住宅業界では、環境への配慮がますます重要な課題となっています。特に、省エネルギーや脱炭素化への取り組みが求められ、持続可能な建築資材や再生可能エネルギーの導入、省エネ住宅の普及が進行中です。
- 労働力不足:少子高齢化に伴い、住宅業界でも人材不足が深刻化しています。特に若年層の労働力確保が難しく、技術継承や生産性向上が課題となっています。
Lib Workの取り組みと今後の展望

本システムは2025年中の開発完了を予定しており、社内での実証実験を経て、正式に市場へ投入される見込みです。ローンチ後は、住宅メーカーや施工業者向けにOEM形式(※1)で提供され、収益化が図られます。
特に日本国内のBtoB向けOEM展開については、Lib Workが独占的に展開する計画であり、業界のニーズに即した最適なソリューションとして、住宅メーカーのDX化の推進を後押しするでしょう。設計の手戻りや人手不足といった構造的な課題に対しても、システムを通じた改善が期待されており、住宅業界全体の生産性向上と持続可能な住宅供給体制の構築に貢献します。
さらにこのプロジェクトは、SDGsの「住み続けられるまちづくり」や「気候変動対策」などの目標にも寄与し、より持続可能で効率的な住宅業界の未来を切り拓く取り組みとして注目されています。
(※1)OEM形式
自社が開発・製造した製品やサービスを、他社のブランド名で販売・提供してもらう形式のこと。
企業概要
- 企業名:株式会社Lib Work
- 代表者:代表取締役社長 瀬口 力
- 設立:1997年8月1日
- 所在地: 熊本県山鹿市鍋田178-1
- 公式HP:https://www.libwork.co.jp/
まとめ
本記事では、Lib Workが開発するAI設計システムの概要と市場動向、今後の事業展開について紹介しました。
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