
日本は世界で最も高齢化が進んでいる国の1つです。この現実に対応するため、株式会社emome(以下、emome)は、高齢者の生活を包括的に支える新しいビジネスモデルを展開。同社は、単なる介護サービスの提供にとどまらず、高齢者やその家族、介護施設、さらには関連企業をつなぐことで、持続可能な高齢者支援の仕組みを構築することを目指しています。
本記事では、emomeの事業内容と、それを支える基幹戦略「CCRCC(Continuing Care Retirement Communal City)」について詳しく解説します。高齢者が自宅や地域で安心して暮らせる社会を実現するための取り組みに迫っていきましょう。
事業内容:高齢者のQOL向上を目指した取り組み

emomeは、高齢者の生活を支えるための多様な事業を展開しています。単なる介護サービスの提供にとどまらず、高齢者やその家族、介護施設、さらには高齢者向けのサービスを開発する企業と連携し、高齢者がより充実した暮らしを送れる環境を整えることを目指しています。
この考え方のもと、emomeは「エフィカシー(自己効力感)に溢れる世界を創る」というパーパスを掲げ、さまざまな事業を通じて高齢者の生活の質(QOL)の向上に取り組んでいる点が特徴です。
emomeが提供する4つのサービス

1. シニアカレッジ(動画レクリエーションサービス)
高齢者施設向けのデジタルレクリエーションサービスです。介護職員の負担を軽減しつつ、利用者が楽しめる動画レクリエーションを提供することで、施設の運営効率向上と高齢者の生活の充実を支援します。
2. クレセント・オンライン(介護情報プラットフォーム)
介護業界の課題解決を目的としたメディア事業です。介護施設の取り組みや業界の最新情報を発信し、介護施設運営者や介護職員が有益な情報を得られる場を提供します。
3. SATIMER(介護施設内ショッピング)
介護施設に入居する高齢者向けのショッピング支援サービスです。現在、小田急百貨店と提携し、関東圏で展開。施設内で商品を選び、購入できる仕組みを整えることで、高齢者の利便性を向上させます。
4. シニアビジネスオープンイノベーションラボ(産業振興と価値共創)
高齢者向けのサービス開発を支援するためのプラットフォームです。全国の介護施設を通じて高齢者に価値を届けることを目的とし、企業との連携を促進しています。
こうしたemomeの事業の根底にあるのが、「Continuing Care Retirement Communal City(CCRCC)」という基幹コンセプトです。
emomeの基幹戦略「CCRCC」とは?

CCRCC(Continuing Care Retirement Communal City)は、emomeが提唱する高齢者支援モデルです。もともとアメリカで広がった「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」を発展させ、日本の社会に適した形に進化させたものです。
CCRCとは? その課題と限界

CCRCは、高齢者向けの一貫型生活支援コミュニティのことを指します。具体的には、数万人規模の高齢者が暮らせる大規模施設を建設し、買い物や医療、介護、娯楽などがすべて揃った環境を提供する仕組みです。
しかし、emomeの創業者である森山氏は、日本ではCCRCの運営が難しいと考えています。その理由として、土地の制約や人口規模の違いが挙げられます。
日本は土地単価が高く、大規模な施設を維持することが困難です。また、CCRCは数万人規模を前提としていますが、日本では数百人規模にとどまり、採算が合わないという課題があります。さらに、規模が小さくなることで、内部の商業インフラの充実が難しくなり、持続的な運営が困難になるでしょう。
また、CCRCは高級施設化しやすく、結果として富裕層向けの施設となる傾向が強いです。これにより、多くの高齢者にとって利用しやすい選択肢になりにくいという課題もあります。加えて、日本では住み慣れた自宅で暮らし続けたいというニーズが強く、施設に移ることを望まない高齢者が多いことも運営上の難しさにつながっています。

CCRCCとは? 既存の街に溶け込む新モデル

こうしたCCRCの課題を解決するために生まれたのが「CCRCC」です。CCRCCは、1つの大規模施設にすべての機能を集約する従来のCCRCとは異なり、既存の街にCCRCのコンセプトをインストールすることを目的としています。これにより、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けながら、必要な支援を受けられる環境を整えます。
CCRCCが目指すのは、次のような社会の実現です。
- 自宅に住みながら必要な支援を受けられる環境を整備する
- 高齢者の社会参加を促進し、健康寿命を延ばす
- 地域全体で持続可能なケアシステムを構築する
emomeの具体的な取り組み

この構想を実現するため、emomeは以下の3つの領域に注力しています。
- アシステッド・リビング(生活支援):家事サポートや移動支援を提供し、自立した生活を支援
- コンティニュアス・ケア(継続的な介護):医療・介護事業と連携し、長期的なケアを確立
- アクティブ・コミュニティ(社会参加支援):学びや運動の場を提供し、高齢者が健康で生きがいを持てる環境を整備
CCRCCの核:「City」の概念と戦略

CCRCCの「City」という概念は、単に介護施設を増やすのではなく、地域全体を高齢者に優しい環境へと変えていくことを意味します。これを実現するために、emomeは「エリアドミナント戦略」と「クロスセル戦略」を活用。
エリアドミナント戦略では、特定の地域に密度高くサービスを展開し、相互に連携させることで、高齢者が継続的に支援を受けられる環境を構築しています。
また、高齢者市場はデジタル完結が難しく、対面でのサポートが必須となるため、複数のサービスを組み合わせたクロスセルを行いやすいという特性があります。そこで生活支援・介護・コミュニティを一体化し、持続可能なビジネスモデルを構築しているのが特徴です。
この取り組みを通じて、emomeは「日本発の超高齢社会モデル」を確立し、国内外の高齢者支援の新たなスタンダードを生み出すことを目指しています。
資金調達:2025年3月に第三者割当増資を実施

2025年3月13日、emomeは、株式会社Dual Bridge Capital(株式会社ミダスキャピタルのグループ会社)が運営する「DBC1号投資有限責任組合」を引受先とする第三者割当増資を実施したと発表しました。
現在、同社は介護事業を展開する「ハートフルサンク」や、介護施設向けSaaSサービスであるレクリエーションクラウド「シニアカレッジ」を運営しています。さらに、今春からはアクティブシニア向けの店舗型サロン事業も開始する予定です。今後はCCRCCに基づき、事業ポートフォリオの拡充を進めていくとしています。
市場トレンド:継続介護付き高齢者共同体(CCRC)市場は成長中

Business Research Insightsによると、2024年の継続介護付き高齢者共同体(CCRC)市場規模は約936億5000万米ドルと推定されており、2032年には1321億米ドルに達する見込みです(CAGR 4.4%)。
現在、CCRC市場では核家族化の進展や高齢者の自立志向の高まりを背景に、より自由度の高い生活環境を提供する施設への需要が拡大しています。また、健康管理やウェルネスプログラムを重視した高付加価値型CCRCの人気が高まっており、フィットネス施設やメンタルヘルスケアを充実させる動きが加速しています。
CCRC市場の成長要因と今後の動き
今後、市場の成長を牽引する主な要因として、世界的な高齢化の進行や医療・介護サービスの需要増加が挙げられます。
特に、欧米を中心に「エイジング・イン・プレイス(住み慣れた環境での高齢者ケア)」を実現する施設への関心が高まり、スマートテクノロジーを活用したCCRCが普及する予測です。
たとえば、AIを活用した健康管理システムや、遠隔医療サービスを提供する施設が増えることで、高齢者がより安全で快適な生活を送ることが可能になります。
CCRC市場の課題と対応策
一方で、高額な施設費用や契約の複雑さが市場拡大のハードルとなる可能性があります。
多くのCCRCでは、入居時に高額な一時金が必要となるため、経済的な負担が大きい点が課題です。また、契約内容が複雑であることから、入居希望者が適切なプランを選択する際に混乱するケースも見られます。
今後は、柔軟な料金プランの導入やサービスの透明化を進めることで、より多くの高齢者が利用しやすい環境を整えることが求められます。
企業概要
- 企業名:株式会社emome(エモミー)
- 代表者:代表取締役 森山 穂貴
- 設立:2023年4月27日
- 所在地: 〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-2-1住友不動産虎ノ門タワー6F
- 事業内容:超高齢化社会プラットフォーム事業
- グループ会社:株式会社ハートフルサンク
- 公式HP:https://emome.co.jp/
まとめ
本記事では、高齢者のQOL向上に向けて多角的に事業を展開する株式会社emomeについて紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
株式会社emomeのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。