最終更新日 25/04/01
国内スタートアップ

3Dプリント義足で医療格差に挑む!インスタリムが描くグローバル・サウス戦略と11億円の成長資金

ヘルスケア
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(引用:インスタリム公式HP)

2018年に創業されたインスタリム株式会社(以下、インスタリム)は、世界で初めて3Dプリントによる義足の実用化に成功した日本発のディープテック・スタートアップです。

「すべての人に、質の高い義足を届ける」というビジョンのもと、従来の手作業中心だった義足製造をデジタル化し、アジアを皮切りに急成長を遂げてきました。

そして2025年3月、シリーズB-エクステンションラウンドで約11億円を調達。ウクライナやインドネシア、ナイジェリアなど新興国での多国同時展開に踏み出すとともに、2027年度以降のIPOも視野に入れています。

本記事では、インスタリムの事業モデルや3Dプリント技術の強み、解決を目指す社会課題、そして資金調達の背景と今後の展望について詳しく解説します。

インスタリムの事業内容:3Dプリント義足で世界の医療を再構築

左から「3Dプリント義足」「義足用 3Dプリンタ」「義足設計用 3DCAD(3次元設計ソフトウェア)」(引用:PR Times)

インスタリムは、2018年に日本で創業されたディープテック・スタートアップであり、世界で初めて「3Dプリント義足」を実用化した企業です。従来、義足の製作は、義肢装具士による高度な医学的判断と手作業を要するアナログな工程が中心で、特に発展途上国では人材・資金両面の制約により、義足が行き届かない状況が深刻でした。

この課題に対し、インスタリムは義足製造プロセス全体を“アナログからデジタルへ”転換する革新的ソリューションを開発。製造コスト・納品スピード・生産効率といった主要課題を同時に解消し、義肢装具士1人あたりの生産キャパシティを10倍以上に高めることで、「誰もが質の高い義足を得られる社会」の実現を目指しています。

現在は、アジア新興国を中心に「直販型のクリニック事業」「技術提供を核としたライセンス事業」という2つの事業を柱に、国連や各国政府との連携も進めながら、グローバルな課題解決に取り組んでいます。

直販とライセンスによる2本柱のビジネスモデル

インスタリムの事業内容は、「①クリニック(直販)事業」と「②ライセンス(技術提供・材料販売)事業」の2本柱です。いずれも、インスタリム独自の3D義足製造ソリューションを活用し、異なる市場ニーズに対応しています。

① クリニック(直販)事業:現地患者に直接義足を提供

フィリピンおよびインドに開設された計7か所のクリニック(フィリピン2拠点・インド5拠点)を拠点に、現地で義足の製造から装着までを一気通貫で提供しています。中間業者を介さないローカル生産モデルにより、コスト削減と納期短縮を同時に実現している点が特徴です。

この事業は2019年にフィリピンからスタートし、2022年よりインドにも展開。両国合わせて5,000本以上の義足を提供し、フィリピンではすでに市場シェアNo.1を確立。2022年11月には単月黒字化も達成し、その後も年次成長率120%という高水準で推移しています。インドでも平均月次成長率122.8%と、着実な拡大が続いています。

義足販売本数ベースのインドにおける月次売上の推移(引用:PR Times)

② ライセンス事業:グローバル展開を支える技術提供と材料販売

世界最大級の義足提供組織「ジャイプールフット」に技術提供した様子(引用:PR Times)

ライセンス事業では、インスタリムが開発した3D義足製造ソリューションを、世界中の義肢装具製作所や病院、公的機関に技術ライセンスとして提供しています。このソリューションには、3Dプリント義足の設計支援(3DCAD)、製造支援、トレーニングなどに加えて、義足製造に不可欠なフィラメント(3Dプリント材料)などの販売も含まれています。

2024年度から本格的に展開を開始し、すでに以下のような名だたる医療・義足関連機関で導入が進んでいるそうです。

  • フィリピン整形外科センター(POC):同国最大の国立整形外科病院
  • インド義足製造公社(ALIMCO):年間15万本の義足を製造する世界最大規模の公的義足メーカー
  • BMVSS(ジャイプールフット):42カ国で年間3万4000本の義足を無料提供する世界最大級の義足提供NGO
  • ウクライナのガリチナ・リハビリテーション・センター:国連工業開発機関(UNIDO)の技術移転プロジェクトの一環として導入

さらに、インドネシアでは財閥系の病院チェーンとの契約を進めており、ナイジェリア・エジプトといったアフリカ諸国ではB2G(政府向け)案件も複数商談中。全体で100件以上の商談パイプラインが存在するなど、グローバル展開は今後さらに加速する見込みです。

ウクライナのガリチナ・リハビリテーション・センターでの義足ソリューション活用の様子(引用:PR Times)

インスタリムの技術的特徴:義足製造のDXを実現する3Dプリント

インスタリムの最大の特徴は、従来アナログだった義足製造を、3DプリンタとCAD技術を用いたフルデジタル工程へと転換する「3D義足製造ソリューション」です。このソリューションは、従来の義足製造が抱える課題を以下のように打破しています。

  • 製造コスト:従来比で10分の1以下
  • 納期および初期コスト:同様に10分の1以下
  • 製造キャパシティ:義肢装具士1人あたりの製造数が10倍以上に向上

この技術により、義肢装具士が限られる中進国・発展途上国でも、大量かつ迅速に義足を供給できるようになりました。なお、インスタリムはインドに3Dプリンタ製造工場およびフィラメント製造工場を保有し、日本の本社ではR&Dや事業企画機能を担っています。

世界での実績と成長:導入先・提供数・成長率で見る拡大の軌跡

インスタリムの事業エリア概要図(引用:PR Times)

インスタリムは、創業からわずか数年で、国内外で数々の実績を積み重ねてきました。

  • 義足提供数:5000本以上(直販経由)
  • 導入組織数:9組織以上(公的機関、NGOなど)
  • シェア:フィリピンで市場シェアNo.1を獲得
  • 成長率:フィリピンで年次成長率120%、インドでは月次平均122.8%

また、ウクライナでは戦争により義足需要が年間3000本から30万本規模へと急増しており、UNIDOを通じたプロジェクトにおいて、インスタリムの技術が現地で活用され始めています。

インスタリムが挑む社会課題と成長市場のポテンシャル

左から「義足利用者における糖尿病の割合」「糖尿病患者の増加予測」(引用:PR Times)

現在、世界には4000万人以上の人々が義足を必要としながら入手できていないとされ、その多くが中進国・発展途上国に集中している状況です。その背景には、以下のような構造的問題があります。

  • 義足は1人ひとりの身体に合わせて製作する必要があり、専門の義肢装具士が不可欠
  • しかし、多くの国で義肢装具士の育成や福祉予算が不十分
  • 結果として、技術・コストの壁から義足を持てない人が大量に存在

この問題に拍車をかけているのが、世界的に増加する糖尿病患者の存在です。下肢切断の原因の約8割は糖尿病性壊疽などの血管疾患とされ、特に検診体制の不十分な途上国では「気づいたときには切断」という事例が相次いでいます。2045年には世界の糖尿病患者数が7.8億人に達するとの予測もあり、その90%以上が新興国・途上国で発生すると見込まれています。

こうした背景のもと、義足市場も急拡大しています。現在の推定市場規模は以下の通りです。

  • 世界全体:約2兆円
  • インド:約750億円
  • フィリピン:約98億円

この成長性と社会的インパクトを背景に、インスタリムのソリューションは今後も幅広い地域での導入が期待されており、「技術で医療格差を埋める」モデルとして世界的な注目を集めつつあります。

資金調達:シリーズBエクステンションで11億円を確保

(引用:PR Times)

2025年3月26日、インスタリムはシリーズB-エクステンションラウンドとして、総額約11億円の第三者割当増資による資金調達を実施したと発表しました。調達先には、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)、みずほキャピタル株式会社など、計9社が参加しています。

今回のラウンドにより、インスタリムの累計資金調達額は21.3億円に達しました。

調達の背景:既存事業の加速と新興国3カ国への展開に向けた資金確保

今回の資金調達の目的は、既存事業の加速と新規国への展開準備です。具体的には、急成長を遂げているフィリピンとインドのクリニック・ライセンス事業の拡張を目指しています。あわせて、2025年度から本格始動するウクライナ、インドネシア、ナイジェリアでの事業展開に向けた体制強化も進める方針です。

これらの国々は、いずれも義足を必要としながら十分な供給が行き届いていない「グローバル・サウス(新興国・途上国)」に属します。インスタリムは今後5年以内にこのグローバル・サウス全域での事業網羅を目指しており、今回の資金調達はそのための布石とのこと。

なお、今回の資金調達には、官民ファンド・大学系VC・金融系VC・事業会社系CVCなど、多様な属性の投資家が参加しています。以下は、主な引受先の一覧です。

  • JICベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社
  • 東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)
  • みずほキャピタル株式会社
  • 株式会社アイティーファーム(IT-Farm)
  • 未来創造キャピタル株式会社(みずほリース)
  • 信金キャピタル株式会社
  • リブライトパートナーズ株式会社
  • 達盈管理顧問股份有限公司(Darwin Venture Management/台湾)
  • 京セラ株式会社およびグローバル・ブレイン株式会社が共同設立したCVCファンド

これらの幅広い投資家の参画は、インスタリムの事業が社会的意義と成長性の両面から高く評価されていることを示しています。

今後の展望:グローバル展開の本格化と2027年以降のIPOに向けた成長

インスタリムは、今回の資金調達と並行して、2027年度以降のIPO(新規株式公開)を計画していることも明らかにしました。本ラウンドは、短期的な資金確保にとどまらず、中長期的な企業成長戦略の一環といえるでしょう。

現在、ウクライナでの国連プロジェクトをはじめ、インドネシアやナイジェリアといった複数国において、3Dプリント義足の製造・提供事業の同時展開を見据えた体制構築が進められています。こうした取り組みを通じて、インスタリムは「医療アクセスの不平等を解消する世界標準の義足製造インフラ」の実現を目指し、その存在感をグローバルに広げつつあります。

今後、調達資金を活用しながら、より多くの人々に義足を届ける体制を構築していくインスタリムの動向に注目です。

企業概要

  • 企業名:インスタリム株式会社
  • 代表者:代表取締役CEO 徳島 泰
  • 設立:2018年
  • 日本拠点 所在地: 〒130-0003 東京都墨田区横川1丁目16−3
  • 事業内容:3Dプリント義肢装具および製造装置の開発・製造・販売
  • 公式HP:https://www.instalimb.com/

まとめ

本記事では、3Dプリント義足で世界の医療を牽引しているインスタリム株式会社について紹介しました。

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インスタリム株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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