最終更新日 25/04/16
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宇宙葬スタートアップ「SPACE NTK」が拓く終活の新潮流

宇宙
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(引用:SPACE NTK

高齢化が進む日本では、お墓の管理や継承が困難になるケースや無縁墓の増加など、従来の葬送を巡る社会課題が深刻化しています。近年、自分の最期を自分で準備する「終活」への関心が高まり、海洋散骨や樹木葬といった新しい供養も浸透しつつあります。その中で注目を集めるのが、故人の遺骨を宇宙へ送り出す「宇宙葬」です

宇宙葬はロケットで遺骨を地球周回軌道に打ち上げて散骨するもので、文字通り 先進テクノロジー×葬送 を体現した新サービスと言えます。こうした宇宙葬ビジネスに日本でいち早く取り組んだスタートアップ企業が株式会社SPACE NTK(以下、SPACE NTK)です。2017年創業のSPACE NTKは「人は亡くなったら星になる」という幼少期の想いを原点に、宇宙葬サービスを通じて葬送のイノベーションを目指しています。

事業内容:宇宙葬サービス「SPACE NTKメモリアル」

SPACE NTKは、宇宙葬サービス「SPACE NTKメモリアル」を提供しています。以下の点から詳しく説明していきます。

  • サービス概要
  • 解決する課題
  • 独自性・差別化
  • ターゲット顧客
  • 利用・提供価値

サービス概要

(引用:SPACE NTK


SPACE NTKメモリアルは、故人やペットの遺骨の一部を小型人工衛星に納めて宇宙へ送り出す宇宙葬サービスです。専用カプセルに収められた遺骨を、民間宇宙企業スペースX社のロケット(Falcon 9)に載せて地球上空約500kmの軌道へ投入します。衛星はその軌道上を数年間周回した後、大気圏に再突入して燃え尽き、流れ星となって夜空に輝きます。まさに「人は亡くなったら星になる」というロマンを現実化したサービスであり、SPACE NTKではこの宇宙葬を「SPACE SOH(宇宙想)」とも呼んでいます。

同社は宇宙散骨専用のオリジナル人工衛星「MAGOKORO号」を開発し、2022年4月に世界初となる遺骨のみを搭載した衛星打ち上げに成功しました。宇宙葬以外にも、遺骨を一度宇宙空間へ送り再び手元に戻す「宇宙遺骨旅行」や、生前に宇宙でセレモニーを行う「宇宙生前葬」といった関連サービスの企画も進められています。

解決する課題

(引用:SPACE NTK


SPACE NTKの宇宙葬は、現代の葬送が抱えるいくつかの課題解決につながる先進的な取り組みです。例えば、遠方に住む家族がお墓参りできない問題に対して、宇宙葬なら世界中どこにいても夜空を見上げるだけで故人を偲ぶことができます。お墓の土地や管理費の負担を軽減できる点も特徴です。

また、継承者がいないため無縁墓になってしまう懸念も、宇宙葬であれば物理的な墓を持たないため発生しません。宇宙という壮大な舞台に送り出すことで、遺族にとっては「故人が星となり見守ってくれている」という心の支えになり、「最後の願いを叶えてあげられた」という大きな満足感を得るケースも報告されています。従来の墓に遺骨を納める暗く狭いイメージを一新し、SDGs供養にも通じる持続可能で心豊かな供養の形として期待されています。

独自性・差別化

(引用:SPACE NTK


宇宙葬自体は米国など海外でも提供例がありますが、SPACE NTKのサービスにはいくつかの独自性があります。

最大の特徴は、遺骨のみを搭載する専用人工衛星を自社で用意した点です。同社代表の葛西氏によれば、遺骨だけを収めたオリジナル衛星を打ち上げたのは世界初であり、これにより他の衛星ミッションに依存せず確実に故人の「宇宙への旅立ち」を実現できます。スペースX社と提携し信頼性の高いロケットを利用することで、安全面・技術面での不安も低減しました。また、日本発のサービスとして、申し込みから打ち上げ見学ツアーの案内、打ち上げ後の衛星軌道情報提供まで一貫して日本語で手厚いサポートを受けられる点も差別化ポイントです。

さらに「人は星になる」という物語性を重視したプロデュースや、宇宙葬専用のブランド(宇宙SOH)の構築など、感情的価値を高める演出にも力を入れています。他社が既存の宇宙サービスに遺骨を載せるのに対し、自社主導でサービス設計を行うことで、葬儀業界と宇宙業界を融合させた新しいビジネスモデルを切り拓いているのがSPACE NTKの強みです。

ターゲット顧客

(引用:SPACE NTK


SPACE NTKメモリアルの主要ターゲットは、「自分もいつか星になりたい」と願う宇宙好きの方や、生前宇宙に憧れを抱いていた故人を送るご遺族です。実際、初回の打ち上げを利用した故人は「生前宇宙に行きたかった」という共通点があり、家族がその夢を叶える形となりました。また、自身の最期をユニークに演出したいと考える新しい世代のシニア層や、愛するペットを特別な形で送り出したいと望む飼い主層にもアピールしています。さらには寺院や納骨堂の関係者からも問い合わせがあり、従来の供養に捉われない選択肢として協業の可能性も模索されています。価格帯は遺骨の量によって数十万円から数百万円と決して安価ではありません。しかし、それでも「最後の夢を叶える」価値を重視する顧客層から支持を得ています。

利点・提供価値


宇宙葬には、遺族・社会双方にとって新たな利点があります。

遺族にとっては前述のように故人の願いを実現できる喜びや、いつでも星空を通じて故人と心を通わせられる慰めがあります。お墓参りのための移動や維持管理の負担がなくなるため、遠方に住む家族や後継者がいない場合でも安心です。

社会的には、限られた墓地スペースの節約や環境負荷の軽減(墓石や土地資源の削減)につながる可能性が指摘されています。宇宙空間を利用する発想は一見スケールが大きいです。しかし、ロケットには他の商用衛星も同乗しており打ち上げ効率の向上にも寄与します。さらに、本サービスが人々に宇宙への関心を抱かせ、宇宙ビジネス全体のすそ野拡大に繋がるという意義もあります。スペースX社の担当者からも「一般の人々が宇宙と関わる機会を広げる取り組みとしてぜひ継続してほしい」と評価されたとのことで、まさにSDGs時代の新しい供養スタイルとして国内外から期待が寄せられています。

資金調達と創業者背景

(引用:SPACE NTK

SPACE NTKを創業した葛西智子代表取締役は、30年以上にわたり葬儀業界に従事してきたベテラン葬祭プランナーです。幼少期に母から「人は亡くなると星になるのよ」と教えられ、曾祖母の遺骨が狭いお墓に納められるのを見たとき「自分は絶対星になりたい」と心に決めたというエピソードが起業の原点になりました。

2017年12月に株式会社SPACE NTK(当初社名:ASTRAX MEMORIAL)を設立し、本格的に宇宙葬ビジネスの準備を開始します。しかし当時、日本国内では民間企業が自由にロケットを使った宇宙事業を行う環境が整っておらず、当初は苦労の連続でした。葛西氏は2018年に米国で開催された国際宇宙会議で宇宙葬サービスの構想を発表し、その場でスペースX社の日本人技術者と出会ったことをきっかけに道が開けます。

事業資金の調達面では、2019年末に株式投資型クラウドファンディングで800万円の出資募集を試み約660万円の応募を得ましたが目標未達に終わりました。それでも諦めずにスポンサーや協力者を探し、最終的には信頼できるパートナーからの支援を得て打ち上げ資金を確保します。そして迎えた2022年4月1日スペースX社Falcon 9ロケットによる初の宇宙葬衛星「MAGOKORO号」打ち上げに成功し、日本初の宇宙葬を実現するに至りました。

葛西代表は「打ち上げの瞬間は皆で抱き合い涙した」と語り、その夢が半世紀越しに結実した感慨を振り返っています。今後も情熱を持って新サービスの開発や次回打ち上げ計画に取り組んでおり、創業者のストーリー自体が宇宙葬ビジネスの大きな推進力となっています。

市場規模と将来性:宇宙ビジネス世界市場2040年までに約140兆円規模へ

(引用:coevo)縦軸:○○兆円 横軸:西暦○○年

世界的に見て、宇宙関連ビジネスは今後飛躍的な成長が見込まれる分野です。経済産業省の資料によれば、宇宙ビジネスの世界市場規模は現在約54兆円にも達し、2040年までに約140兆円規模へ拡大するという予測です。実際、2010年代から2020年にかけて宇宙産業は約1.7倍に成長しており、民間企業の参入や技術革新を背景に年率9%程度の高成長が続くとされています。日本国内市場は約4兆円(2020年時点)とシェアは小さいものの、政府も「宇宙産業ビジョン2030」を掲げ新規参入を支援しており、宇宙スタートアップへの注目度は高まっています。

こうした宇宙ビジネス隆盛の中で、SPACE NTKの宇宙葬サービスは終活ビジネスという異業種と宇宙産業を結ぶユニークな存在です。日本のライフエンディング(葬祭)市場規模は2023年で約1.7兆円、2032年でも1.76兆円程度と緩やかな拡大が見込まれています。死亡者数の増加で葬儀件数自体は増える一方、一件当たり費用は家族葬の普及等で縮小傾向にあり、業界全体としては横ばいの予測です。しかしその内訳を見ると、海洋散骨や樹木葬など新しい供養スタイルの需要は着実に増えています。宇宙葬もまだニッチではあるものの、国内初の打ち上げ成功が報じられた後には問い合わせが急増し、今後は「月面への散骨」プランまで検討されるなど、将来性豊かな分野として期待されています。

SPACE NTKでは今後年1回ペースで宇宙葬ミッションを実施予定で、すでに2023年10月には第二弾の打ち上げを控え13体分の遺骨が待機中との報道もあります。価格面でも今後ロケットの低コスト化や需要拡大によるスケールメリットで、より利用しやすい水準になる可能性があります。超高齢社会の日本において、「宇宙葬」という先進的な終活サービスが大きな市場の一角を占める日が来るかもしれません。

会社概要

  • 会社名: 株式会社 SPACE NTK
  • 所在地: 東京都練馬区中村南3-2-15(東京本社・営業本部)
  • 設立: 2017年12月4日
  • 代表者: 代表取締役 葛西 智子
  • 事業内容: 宇宙葬サービスの企画・運営、葬祭関連事業全般
  • 公式HP: SPACE NTK公式サイト

まとめ

本記事では、宇宙葬を提供する株式会社 SPACE NTKについてご紹介しました。

同社は、「葬送のラストステージを宇宙へ」という大胆な発想で終活の新潮流を切り開いています。その挑戦は伝統的な葬儀観に一石を投じ、先進テクノロジー×葬送の可能性を示すものです。

今後、同社が継続的にミッションを成功させ、月面散骨など新たなプロジェクトを実現すれば、宇宙葬はSDGs時代の革新的な供養として国内外から更なる注目を集めるでしょう。宇宙を舞台に人々の「想い」を届けるSPACE NTKの挑戦は、これからも多くの人々の希望となり、終活ビジネスと宇宙ビジネスの架け橋として輝き続けることが期待されます。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

株式会社 SPACE NTKのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、ぜひ関連記事もご覧ください。

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