最終更新日 25/04/19
国内スタートアップ

衛星データで農業DX 耕作放棄地ゼロへ挑むサグリ株式会社

AIDXアプリ開発農業
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(引用:公式HP

日本の農業は高齢化による担い手不足耕作放棄地の増加といった課題に直面しています。例えば全国の自治体では毎年農地調査が義務付けられていますが、その現地確認や書類作成には膨大な時間と労力がかかり、非効率な状況でした。一方で、気候変動による環境問題や食糧安全保障への関心も高まっており、農業分野のデジタル化(農業DX)が急務となっています。

今回紹介するのは、そんな状況の中耕作放棄地ゼロへ挑むサグリ株式会社(以下、サグリ)です。同社は、宇宙から取得できる衛星データとAI(人工知能)を活用し、農地の状態を「見える化」することで農業の効率化と持続可能化に挑むアグリテック(Agritech)企業です。

アグリテック企業・・・AIやIoT、ドローン、ロボットなどの先端技術を活用して農業の生産性向上や効率化に取り組む企業)

2018年創業のスタートアップで、本社を兵庫県丹波市に構えつつ世界の農業現場へサービスを展開しており、ビジョンに「人類と地球の共存」を掲げています。衛星データにAI解析を組み合わせた独自技術により、行政向けの農地活用事業と農家向けのアグリイノベーション事業を展開し、農業分野の社会課題解決に貢献しています。

本記事ではその事業内容や資金調達について詳しく解説していきます。ぜひ最後までご覧ください。

事業内容①:営農支援アプリ「Sagri」

(引用:PR TIMES

営農支援アプリ「Sagri」は、衛星データとAI技術で圃場の生育状況と土壌状態を見える化する農業者向けの管理アプリです。衛星画像から植物の生育指数(NDVI)を解析し、地図上に生育ムラを色分け表示することで、生育不良地収穫適期の見極めなどを直感的に把握可能です。さらに独自AIで土壌のpHや炭素量などを推定し区画ごとの肥培管理に役立てます。

これにより、広大または分散したほ場を一括で監視でき、肥料高騰(化学肥料価格は近年2〜3倍に上昇)の中でも必要な圃場を優先的にケアし適正施肥を実現します。従来は分析機関へ依頼し数週間を要した土壌分析を、圃場を登録するだけで即座に利用できる手軽さも大きな利点です。

主なユーザー層は大規模農家営農組織(JA等)で、PCやスマートフォンから圃場データにアクセスし、離れた土地でも状況を把握可能です。作業の効率化と収量向上が期待でき、適切な施肥による化学肥料コストの削減にも繋がります。実際、北海道新篠津村兵庫県丹波市での実証実験を経てサービス化され、JA秋田しんせいなどでも導入が進んでいます。

事業内容②:農地活用事業

(引用:公式HP

農地活用事業では、独自の衛星データ解析×AI技術で農地情報を見える化し、耕作放棄地ゼロと農地有効活用を目指しています。 高齢化等で増加する遊休農地(耕作放棄地)の発生抑制や、農地管理業務の負担軽減を通じ、地域の持続可能な農業に貢献することを目的としています。主なサービスは以下の3つです

  • ACTABA(アクタバ)
  • DETABA(デタバ)
  • NINATABA(ニナタバ)

「ACTABA(アクタバ)」

サグリの農地活用事業では、自治体向けに農地の利用状況をデジタル管理するサービスを提供しています。中心となる「ACTABA(アクタバ)」は、一定期間使われていない可能性のある耕作放棄地を人工衛星データAIで判別し、地図上に赤色でハイライト表示する農地パトロール支援アプリです。これまで人手で行っていた耕作放棄地調査を大幅に効率化でき、判定精度は現状で9割を超えます。実際に岐阜県下呂市や広島県尾道市・世羅町など全国100以上の自治体で導入・実証されており、関西初導入となった神戸市では遊休農地の早期発見による有効活用・地域活性化への効果が期待されています。

「DETABA(デタバ)」

また、衛星データで農地に作付けされた作物の種類を判定するアプリ「DETABA(デタバ)も提供しています。DETABAにより広範囲の圃場の作付状況をまとめて把握でき、自治体が毎年行う作付調査(作物種別の現況調査)の効率化が可能です。

「NINATABA(ニナタバ)」

さらに、サグリは農地の所有者と利用希望者をつなぐマッチングサービス「NINATABA(ニナタバ)も展開しています。NINATABAでは衛星解析データGIS(地理情報システム)技術を用いて点在する農地を可視化し、農地を貸したい・売りたい所有者と、借りたい・買いたい農業者や企業をマッチングします。高齢化などで耕作が難しくなった農地や未利用地を新たな担い手につなげることで、遊休農地の解消と有効活用につなげることが可能です。これら一連のサービスにより、自治体の農地管理業務のDX化を支援し、耕作放棄地ゼロの地域づくりや農地集約による生産性向上に寄与しています。

事業内容③:アグリイノベーション事業

(引用:公式HP

アグリイノベーション事業は、農業分野の脱炭素・環境保全に向けたソリューションを提供する事業です。農業由来の温室効果ガス排出削減や土壌劣化防止など環境課題の解決と、農業者の収益向上の両立を図ります。

衛星データとほ場データ等のビッグデータをAIで解析し、農学知見と組み合わせてソリューションを創出する点が特徴です。 そのため脱炭素を目指す企業・自治体、農業資材メーカー、海外農村地域が主な対象です。この事業を導入することで、企業にとってバリューチェーンの脱炭素化につながり、環境と経済の好循環をもたらします。

サグリはこの事業において以下のプロジェクトを展開しています。

  • カーボンインセット: サプライチェーン上に農地を有する企業に対し、農地由来のGHG排出削減戦略策定を支援します。
  • 環境保全型資材プロジェクト: バイオ炭やバイオスティミュラント等の資材メーカーと協力し、試験ほ場での効果検証データを提供します。
  • カーボンクレジット創出: 農地でのGHG削減量・炭素隔離量を測定し、第三者認証によるクレジット化とプロジェクト管理を実施。削減量をクレジット化し、農家の収入向上に繋げます。
  • 農地土壌解析モデル提供: 各自治体の土壌データを機械学習で分析し、地域専用の土壌モデルを構築・提供。営農指導に生かし、地域単位で持続可能な農業を支援します。

資金調達:シリーズAラウンドにて約10億円を到達

(引用:PR TIMES

サグリは2024年8月8日シリーズAラウンドにて約10億円の第三者割当増資を実施し、累計調達額を大きく伸ばしました。このラウンドには、独立系VCの千葉道場やグローバル・ブレインのファンドのほか、SMBCベンチャーキャピタルや池田泉州キャピタルといった金融系VCが出資。加えて島津製作所、キリンHD、ヤマト運輸、キヤノンMJといった事業会社のCVCも参画し、多様な業界から注目を集めています。

投資家からの評価ポイントは、サグリのサービスが農業×脱炭素という社会的インパクトの大きい分野で実績を上げていることです。実際、ビール大手のキリンは原料である大麦の圃場管理への活用に関心を寄せており、サグリによる農地の見える化がサプライチェーン全体の脱炭素(スコープ3対策)につながると期待されています。

今回調達した資金により、サグリは民間企業向けの農地マッチング事業や脱炭素ソリューションの強化を進める計画です。具体的にはプロダクト開発人員や研究開発体制を拡充し、日本国内のみならずグローバル展開も見据えた組織体制を構築するとしています。坪井俊輔CEOは「3年以内に農業×脱炭素でアジアトップを目指す」と語っており、豊富な資金を背景にサービス拡大と社会実装を加速させる構えです。

資金調達概要

  • ラウンド種別:
    シリーズAラウンド
  • 調達額:
    約10億円
  • 調達方法:
    第三者割当増資
  • 引受先(VC・事業会社等):
    • 千葉道場株式会社、グローバル・ブレイン株式会社(複数のファンドを運営)
    • スパークル株式会社
    • SMBCベンチャーキャピタル株式会社
    • 静岡キャピタル株式会社
    • あおぞら企業投資株式会社
    • BIG Impact株式会社
    • 池田泉州キャピタル株式会社
    • 北海道ベンチャーキャピタル株式会社
    • レオス・キャピタルパートナーズ株式会社
    • 株式会社グロービス(グロービス・キャピタル・パートナーズ含む)
  • エンジェル投資家(個人):
    • 石塚 亮 氏(メルカリ創業者)
    • 宮田 昇始 氏(SmartHR創業者/Nstock CEO)

市場規模:スマート農業市場、2030年度に約788億円に達する予測

(引用:矢野経済研究所

農業分野における衛星データ活用やスマート農業の市場は、今後大きな成長が見込まれます。矢野経済研究所の調査によれば、国内スマート農業市場規模は2023年度に約301億円を記録しており、2030年度には約788億円に達する予測です。化学肥料価格の高騰への対応策として、リモートセンシングによる生育マップ作成や可変施肥技術を活用したスマート農機の普及が市場拡大を牽引しています。政府もデジタル技術による農業DXを推進しており、この分野への投資は今後も拡大するでしょう。

グローバルで見ても、農業×宇宙データの分野は成長著しく、農業向け衛星データサービス市場は2025年から2032年にかけて年平均14.8%という高い成長率で拡大すると予測されています。

その背景には、精密農業(Precision Agriculture)ニーズの高まりや気候変動への対応、そして食料安全保障の重要性増大といった要因があります。衛星コンステレーションの進展により高頻度・高解像度なデータ入手が容易になることや、AI解析技術の進歩も相まって、市場規模は2030年に数千億円規模に達するとの予測です。こうした潮流の中宇宙ビジネスアグリテックを融合したサグリの事業領域は非常に有望であり、国内外のスマート農業市場拡大と歩調を合わせてさらなる成長が期待されています。

会社概要

  • 会社名: サグリ株式会社(Sagri Co., Ltd)
  • 所在地: 東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル18階(東京本社)
  • 設立: 2018年6月14日
  • 代表者: 坪井 俊輔(代表取締役CEO)
  • 事業内容: 衛星データ解析および機械学習による事業創出
  • 公式HP:https://sagri.tokyo/

まとめ

本記事では、衛星データという宇宙の視点とAI技術を駆使して農業の課題解決に取り組む、新進気鋭のスタートアップ、サグリ株式会社を紹介しました。

サグリ株式会社の取り組みは農業分野の脱炭素化気候変動対策にも資するものであり、まさにSDGs時代に求められる革新的ソリューションと言えます。「人類と地球の共存を実現する」というビジョンのもと、耕作放棄地ゼロと持続可能な農業の未来を目指すサグリの挑戦は、これからの農業界に大きなインパクトを与えていくでしょう。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

サグリ株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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