
起業を目指す学生や若いスタートアップ創業者にとって、人脈づくりや支援者探しは大きな課題です。従来のSNSやプロフェッショナルネットワーキングでは、フォロワー数や「いいね」の数といった表面的な数字が重視されがちで、それがかえって「自分はまだ実力不足だ」といった萎縮感やFOMO(機会損失への恐怖)を生み出し、気軽な相談やアプローチを妨げているとも指摘されています。
こうした課題に対し、米コネチカット州ニューヘイブン発のスタートアップSeries(シリーズ)社は、学生起業家向けの新しいSNSプラットフォームによって解決を試みています。
本記事では、Series社(以下、Series)の事業内容やサービスの特長、市場規模など幅広く紹介します。
事業内容:AIが“共通の友人”になる 学生起業家向けマッチングSNS「Series」

Series社が提供する学生起業家向けSNS「Series」は、AIを活用したユニークなマッチング機能が特徴です。ユーザーには仮想の相談相手となる「AIフレンド」と呼ばれるAIエージェントが一人ひとり割り当てられます。
例えばユーザーが「共同創業者を探したい」「事業プランについて助言がほしい」「アプリ開発を手伝ってくれるエンジニアが必要」など、起業やビジネス上の相談・支援ニーズをこのAIフレンドにメッセージでリクエストすると、AIがネットワーク上から適切な人物を探し出し、双方のユーザーに引き合わせてくれます。紹介を受けた双方がマッチに同意すれば、グループチャット形式で直接つながり、本物の人間同士の「出会い」が生まれる仕組みです。
このように、支援の依頼からマッチングまでをAIが仲介してくれるため、自分から見知らぬ相手にいきなり連絡する負担や気後れを軽減でき、まるで共通の友人(=AIフレンド)を介して紹介してもらうような“あたたかいつながり”が得られるのが特徴となっています。
発信よりマッチング重視、従来のSNSとの違い

従来のSNSとの違いも明確です。一般的なSNSがタイムラインへの投稿やフォロワー集めを中心とするのに対し、Seriesは非公開の紹介型ネットワーキングに特化しています。「SNSは情報発信には優れているものの、『今まさに自分に必要な出会い』を得る手助けにはなりづらい」という課題意識のもと開発されており、プロフィールの見栄えを繕ったりフォロワー数を競ったりする必要がありません。ユーザーは自分の本音や困り事をAIフレンドに打ち明け、本当に役立つつながりだけを紹介してもらえるため、「誰かに助けを求めたいけれど遠慮してしまう」という若手起業家の心理的ハードルを下げる効果が期待されています。
実際、創業者の一人であるハーグロウ氏も「肩書や表面的な数字は忘れて、あなた自身が必要としているもの、そして提供できる価値にフォーカスしよう」と呼びかけています。サービス開始当初からこのコンセプトは共感を呼び、2024年夏の初期版チャットボット公開からわずか数ヶ月で全米500以上の大学にユーザーコミュニティが広がりました。学生の学校発行メールアドレスで登録すればグループチャット機能なども利用可能で、定着率も高く、ローンチ以降のテスト段階ですでに3万2千通以上のメッセージがAIフレンドを介してやりとりされています。
サービス名の「Series」は“シリーズ”という単語に由来しますが、これは同社の創業前に学生たちが運営していたポッドキャスト番組「The Founder Series」で得た着想によるものです。創業者のジョンソン氏とハーグロウ氏は在学中に起業家たちへのインタビュー番組を続ける中で「成功者の多くが語る偶然の出会い(幸運こそが重要という教訓)に注目し、それをテクノロジーで誰にでも再現できないか」と考えました。こうして生まれたのが、AIによって運命的な出会いを演出しようというコンセプトの「Series」なのです。
イェール大在学中に起業した創業者の経歴

Nathaneo Johnson(ナサネオ・ジョンソン)氏とSean Hargrow(ショーン・ハーグロウ)氏の2人は、それぞれ米イェール大学在学中にSeriesを立ち上げた学生起業家です。
ジョンソン氏は幼少期から物作りやプログラミングに親しみ、高校時代には視覚障がい者向けの歩行支援スティックの制作や、大学入学前の夏には新入生の交流を促すSNSアプリを開発した経験もあります。一方のハーグロウ氏は高校までバスケットボールに打ち込み、名門大学からスポーツ推薦を受けるほどの実力者でしたが、奨学金を得て入学したイェール大学で起業家精神に目覚め、スポーツに代わる情熱をスタートアップに注いだ異色の経歴の持ち主です。
二人は大学1年時に起業サークルで出会い意気投合し、前述のポッドキャスト「The Founder Series」を共に立ち上げるなど準備を重ねてきました。在学中に起業という多忙な日々を送りながらも、大学の起業支援プログラムへの参加や全米の大学キャンパスを巡る「カレッジツアー」を計画するなど精力的に活動しています。学生でありながら巨額の資金を調達し、サービス開発と学業を両立させる彼らのストーリー自体も、同世代の起業家予備軍にとって大きな刺激となっているようです。
資金調達:構想からわずか14日間程度でプレシードラウンドにて約310万ドルを調達
この革新的なアイデアは投資家からも高く評価され、Seriesはプレシードラウンドで約310万ドル(約4億4千万円)の資金調達に成功しています。驚くべきことに、この資金調達は構想からわずか14日間程度という短期間で実現しました。
リード投資家を務めたのはシリコンバレーの著名な投資家で、元Andreessen Horowitzパートナーのアン・リー・スケイツ氏です。ジョンソン氏とハーグロウ氏は、彼女との出会いのために思い切って36時間後のフライトでカリフォルニアへ飛び、自分たちの熱意を直接伝える「ミリオンドルのディナー」(数億円の出資契約が生まれた夕食会)にこぎつけたといいます。このエピソードからも、創業チームの行動力と情熱が伝わってきます。その後は雪だるま式に出資の輪が広がり、最終的に総額310万ドルのプレシード資金を確保しました。
出資陣にはリード投資家のスケイツ氏のほか、米名門VCのPear VCや、新興VCのParable Ventures(リード投資家として主導)、「Reddit」現CEOのスティーブ・ハフマン氏、AI文章判定ツール「GPTZero」開発者のエドワード・ティアン氏など名だたる投資家が並びます。このように、シリコンバレー屈指の投資家から資金と信頼を得たことは、Seriesのビジョンが大きな可能性を秘めていることを物語っています。
市場規模:グローバルのプロ向けSNSアプリ市場規模は2030年には約640億ドル規模に達する見通し

学生起業家向けSNSという分野は新興領域ですが、その背景にあるプロフェッショナルSNS市場は世界的に見て大きな成長を遂げています。
ある調査によれば、グローバルのプロ向けSNSアプリ市場規模は現在約310億ドル(約4兆5千億円)と推定され、2030年には約640億ドル(約9兆円)規模に達する見通しです。これは年平均成長率(CAGR)にして約10.9%という高い伸びを示しており、キャリア志向の若者層のオンライン交流需要が今後いっそう拡大していくことを示唆しています。特にZ世代はデジタルネイティブ世代であり、就職活動のみならず起業やプロジェクト立ち上げにおいてもSNSを積極的に活用する傾向があります。実際、日本国内の大学生を対象としたアンケートでも、「起業に興味がある」と答えた学生が42.0%にのぼったという状況です。また、起業を志す学生の多くが「資金調達の支援」や「先輩起業家とのつながり」を求めており、まさにSeriesのようなサービスが提供するマッチング機能へのニーズは高いと言えるでしょう。
現在、プロフェッショナル向けSNSと言えば世界的にはLinkedIn(リンクトイン)が約9億人以上のユーザーを抱える代表例ですが、必ずしも学生や20代前半の起業家志望者にとって使いやすいプラットフォームとは言えません。日本においても、ビジネスSNSは徐々に浸透しつつあるものの、学生が気軽に起業仲間やメンターを探せる場は限られています。その点、Seriesのように若年層に特化した起業家コミュニティSNSは市場の隙間を突く存在であり、巨大SNSが対応しきれていないニーズを満たすことで独自の地位を築ける可能性があります。創業者たちも「従来のネットワークは閉鎖的で、一部の人だけが恩恵を享受してきた。それをテクノロジーの力で誰にでも開放し、新しい起業家のエコシステムを作り出したい」と意気込んでおり、Seriesは単なる学生向けSNSに留まらず「次世代の人脈づくりインフラ」として市場に挑戦していく構えです。
会社概要
- 会社名:Series
- 所在地:米国コネチカット州ニューヘイブン
- 設立:2023年
- 代表者:Nathaneo Johnson(ナサネオ・ジョンソン) – Co-founder & CEO
- 公式サイト:https://series.so/
まとめ
Seriesの挑戦は、SNSの新たな可能性を切り拓くものとして今後ますます注目を集めるでしょう。現在は学生起業家というニッチなコミュニティからスタートしていますが、将来的には金融・教育・医療など幅広い分野で「必要な人と人をつなぐ」プラットフォームへと発展させる構想も語られています。実際、創業チームは将来の展望として「世界で最もアクセスしやすいウォームネットワーク(温かな人脈網)を構築する」ことを目標に掲げており、その実現に向けて着実に歩みを進めています。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
Seriesのような国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もぜひご覧ください。