宇宙から地球を見守る技術が、私たちの生活をどれだけ変えられるのでしょうか?
今回紹介する「株式会社Synspective」(以下、Synspective)は、SAR(合成開口レーダー)衛星を活用して、自然災害のリスク軽減や持続可能な社会の実現を目指す企業です。宇宙から取得したデータをもとに、独自のソリューションサービスを提供しており、安全で環境にやさしい世界を創り出すことをミッションに掲げています。
2024年12月19日、Synspectiveは東京証券取引所グロース市場に上場を果たしました。この大きな一歩により、同社の活動にさらなる注目が集まり、次なる成長が期待されています。
この記事では、注目の成長企業Synspectiveの沿革、事業内容、そして将来展望に迫ります。宇宙テクノロジーが私たちの日常にどのような価値をもたらすのか、一緒に見ていきましょう。
SAR衛星とは?:天候や時間帯に関係なく地球を撮影できる
SAR衛星とは、天候や時間帯に関係なく、地球上の広範囲を撮影できる観測衛星です。今までの光学カメラを搭載した衛星と異なり、レーダーを用いて撮影するため、雨天時や夜など太陽光がないときでも撮影できます。
その撮影機能を駆使して、SAR衛星は、地球環境や気候変動の理解に大きく貢献してきました。現在、SAR衛星の小型・軽量化が進んだことで、定常的に地上を観測できるよう多く打ち上げられています。
事業概要:衛星コンステレーションの運用とデータ解析ソリューションの開発
Synspectiveの事業概要は、SAR衛星とそのコンステレーションの開発・運用と、取得データの解析ソリューションの開発・販売です。
同社は、災害対策や気候変動のモニタリング、持続可能なインフラの開発といった、社会や顧客のニーズを反映したSAR衛星の開発に努めています。
また、SAR衛星により得られたデータや画像を用いた、地盤リスクや洪水被害予想などのデータ解析ソリューションも開発してきました。以下で、同社のソリューションについて詳しく説明します。
(衛星)コンステレーションとは:多数の人工衛星から成る一群・システムのこと。
ソリューションサービス①:LDM(地盤変動モニタリング)
LDM(地盤変動モニタリング)とは、衛星データから広域の地盤変動をmm単位で解析し、その結果を提供するソリューションサービスです。
開発背景として、広域にわたる土地の沈降や地滑りのリスク把握に、多くの時間と人件費を費やしている現状があげられます。
LDMによって、離れたところから安全に地盤のリスクを把握することが可能です。また、災害時に、人が安全に入れない地域の調査を進めることができます。
ソリューションサービス②:FDA(Flood Damage Assessment)
FDAは、洪水被害において、どこでどれほどの被害があるかを迅速に把握するために開発されました。
SAR衛星ならではの気候に左右されない観測技術で、広範囲の地域を対象に、浸水被害の有無や道路・施設への影響範囲を特定します。
また、省庁や自治体への災害情報伝達だけでなく、損害保険会社や金融機関における水害リスク査定に対応している点も最大の特徴です。
上場発表:東京証券取引所グロース市場へ
2024年12月19日、Synspectiveは東京証券取引所グロース市場への上場を果たしました。創業からわずか6年という短期間での上場達成は、同社の目覚ましい成長と高い将来性を示すものといえるでしょう。
初日の株価は公開価格480円を大きく上回る736円でスタートし、終値は635円となりました。これにより、時価総額は687億3800万円に達し、投資家からの高い関心をうかがわせました。
Synspectiveの上場は、2023年以降で国内の宇宙関連ベンチャーとして4社目にあたります。同社の2023年12月期決算では、売上高13億8628万円を計上しましたが、純損失は15億2045万円の赤字。そのため、今回の上場は赤字を抱えたままでの実施となりました。
新井元行代表は、上場の理由について以下のように語っています。
「これまで技術開発と営業活動を進めてきた結果、事業基盤が整いました。次のステップとして衛星の数を増やし、事業をさらに拡大するフェーズに入りました。また、気候変動や地政学リスクの高まりによる災害対応の需要が急増しており、事業拡張のために資金を調達するには今が最適なタイミングと判断しました。」
Synspectiveは、まず国内の安全保障や災害対応ニーズに応えるため、複数の衛星で構成される「コンステレーションシステム」の拡張を目指しています。今後4〜5年の間に30機以上の衛星を運用する計画であり、これにより公的案件だけでなく、民間セクターへの展開も視野に入れています。
同社は中長期的には海外展開を進め、新しい市場を創出していく考えです。新井代表は、「宇宙産業の特性上、市場からの影響を受けやすいものの、収益性を着実に積み重ねていくことで評価されていきたい」と述べており、社会性と収益性のバランスを取りながら成長を目指す姿勢を示しています。
資金調達:2024年時点で累計調達額は291億円に到達
Synspectiveの合計資金調達額は、2024年時点で291億円を超えています。
同社は、2022年シリーズBラウンドにて、第三者割増投資および融資により総額119億円の資金調達を達成しています。また、2023年には、交付上限額41億円の、経済産業省による中小企業イノベーション創出推進事業テーマBに採択されました。
地下鉄の開発や災害対策などのソリューションサービスを展開し、多くの業界の課題解決を担っているため、同社は今後ますます発展していくでしょう。
市場規模:2030年に衛星データサービス市場は458億米ドルまで成長
Panorama Data Insightsが2021年に発表したレポートによると、2030年に衛星データサービスの世界市場が458億米ドルまで成長するとされています。
衛星データサービスは、天候や大気の状態を把握し、自然災害への対策にも繋がります。
また、商業衛星画像は環境保全やエネルギー供給、国境監視などさまざまな用途で使われるため、ますます需要が高まっていくでしょう。
企業沿革:小型SAR衛星の打ち上げ・データ取得に幾度も成功
Synspectiveは、ImPACTプログラムの技術成果を社会的に実装する形で、2018年に新井元行氏により設立されました。
ImPACTプログラムから継承した技術を応用し、小型SAR衛星の打ち上げとデータ取得に3度も成功しています。たとえば、2021年に日本ではじめて、民間の小型SAR衛星(100kg)による画像を取得しました。また、2022年には、初の商用実証機であるSAR衛星「StriX-1」を打ち上げ、データも取得しています。
さらに、Synspectiveは2020年に、初のソリューションサービスであるLDM(地盤変動モニタリング)を発表しました。同年12月にFDA(洪水被害分析ソリューション)を発表するなど、多様なビジネスや業界に適したソリューションの開発・リリースに努めています。
ImPACTプログラムとは:政府の科学技術・イノベーション政策の司令塔を務める総合科学技術・イノベーション会議が、ハイリスク・ハイイベントな研究開発の促進と、持続的なイノベーションシステムの実現を目指したプログラムのこと。https://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/about-kakushin.html
企業概要
- 企業名:株式会社Synspective
- 代表者:代表取締役 CEO 新井 元行
- 設立:2018年2月22日
- 所在地: 〒135-0022 東京都江東区三好3-10-3 THE BREW KIYOSUMISHIRAKAWA 1F
- 公式HP:https://synspective.com/jp/
まとめ
本記事では、小型SAR衛星の開発・運用から、SARデータの販売とソリューションの提供まで行う株式会社Synspectiveについて紹介しました。
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