農林水産省によると、2023年の日本の食料自給率はわずか38%であり、先進国の中で最低の水準を記録しました。このように海外からの食料輸入への依存が増す一方で、環境負荷の少ない新しい食材や生産方法を模索する動きが日本で広がっています。
そんな中、注目を集めているのが、信州大学発のスタートアップ「Morus株式会社」(以下、Morus)です。同社は高タンパクでありながら環境負荷が低く、有用成分の基礎研究が進んでいる「カイコ」に着目し、食品や飼料といったバイオ原料としての活用を研究しています。
「名門イリノイ大学との共同研究をスタート」「Forbes Asia 100 To Watch 2024に選出」など、今注目を集めるMorus。この記事ではサステナブルな社会を実現する、フードテックスタートアップのMorusについて紹介していきます。
事業内容:カイコをバイオ原料とする4つの事業を展開
Morusは、日本が世界トップクラスの研究技術を誇るカイコをバイオ原料として量産・海外展開し、日本発の素材産業の創出を目指しています。現在は特に食料分野に注力し、4つの主要事業を展開中です。
<Morusが手がける4つの事業>
- 原料供給:カイコ原料「MorSilk Powder」を食品企業に原料供給
- 受託研究:カイコ原料に含まれる独自の機能性成分を受託研究
- 食製品開発:カイコ原料を含有した食製品を開発(共同開発も実施)
- OEM事業:オリジナルプロダクトを開発
カイコは栄養面で非常に優れており、鶏肉よりも高たんぱく質・低脂質です。オメガ3脂肪酸はマグロの16倍、ビタミンB2は豚肉の26倍とたくさんの栄養が含まれています。
気になる味ですが、うまみのもとになるグルタミン酸やイノシン酸といったアミノ酸が豊富に含まれており、ナッツのような風味で食べやすいそう。
またカイコはエサが少量で済み、水も飲まないので環境負荷をかけずに飼育が可能です。「逃げない・共食いをしない」など量産に適した性質も兼ね備えているので、食糧危機の解決に有用だと考えられています。
栄養学世界トップクラスのイリノイ大学と共同研究
Morusは2024年1月31日に、栄養学領域で世界トップクラスのイリノイ大学と、素材価値の深化とグローバル展開強化に向け、「カイコパウダー中の栄養素の利用効率」についての共同研究を開始したと発表しています。
単なるタンパク源としてではなく、カイコ特有の高い栄養を生かした機能性食品の誕生に期待です。
シンガポール支社を設立し海外進出
Morusは2024年4月16日に、シンガポール法人「Morus SG Pte. Ltd.」を設立したことを発表しました。ASEAN諸国での事業展開を狙いとし、そのハブであるシンガポールに法人を設立したとのこと。今後はシンガポールでの拡販・研究開発・人材採用等の事業活動を加速するそうです。
シンガポール食品庁によると、2024年中に食用の昆虫の輸入や販売を解禁する見通しで、Morusは日本で生産した製品を発売します。粉末状にした蚕を原料として、食品メーカー・レストランなどに売るほか、スポーツジムでプロテイン粉末やプロテインバーを販売する予定です。
シンガポールの食料自給率は約1割にとどまっており、食料不足への懸念が指摘されています。政府は2020年に、世界で初めて人工培養肉の販売を承認しており、代替たんぱく源などを生産するフードテック系スタートアップの支援に積極的です。
資金調達:2023年5月にPre Series Aとして2億円を獲得
Morusは2023年5月10日に、Pre Series Aラウンドとして、第三者割当増資・デットファイナンスによって、約2億円の資金調達を実施したと発表しました。
今回調達した資金は、事業の本格的なグローバル展開やチーム体制の拡大、分子生物学・栄養学の研究開発の深化、量産プラント開発に投じていくとのことです。
<第三者割当増資>
- ANRI株式会社(既存投資家)
- 株式会社 DG Daiwa Ventures
- SMBCベンチャーキャピタル株式会社
- 八十二キャピタル株式会社
- 信金キャピタル株式会社
- 株式会社グロービス
<デッドファイナンス>
- 日本政策金融公庫
2022年1月にシードで5000万円を資金調達
Morusは2022年1月5日に、リードインベスターのANRI、サムライインキュベートから、シードラウンドで第三者割当増資により5000万円の資金調達を実施したと発表しています。
調達した資金は、食・医療・飼料・化粧品等の分野におけるプロダクト開発、カイコの品種改良の研究開発、採用・組織体制の強化といった投資に使用されました。
また同時期に共同創業者である、信州大学繊維学部の塩見邦博教授が社外取締役に就任しました。
市場規模:代替タンパク質の世界市場は2035年に4.9兆円へ
株式会社矢野経済研究所は、2022年の代替タンパク質市場がメーカー出荷金額ベースで約6395億円と推定しており、2027年には約1兆7220億円、2035年には約4兆9064億円に達すると予測しています。
市場の成長が堅調に進む理由として、以下の要因が挙げられるそう。
- 植物由来肉の成長 アメリカや欧州など、すでに一定規模の市場を持つ地域では、引き続き市場が拡大していくと考えられています。さらに、アジア圏では健康志向の高まりとともに、技術の進歩も進んでおり、今後の成長が期待されているとのこと。実際に日本では、小売店舗での販売拡大や冷凍食品のラインナップ充実、外食メニューへの導入が進み、消費者の認知度が向上しています。また、JAS規格の制定やSNSを活用したマーケティングも市場拡大の要因となるでしょう。
- 培養肉の普及 培養肉に関しては、シンガポールで2020年12月に初の上市が行われ、2023年6月にはアメリカでも生産・販売が認可されました。アメリカやシンガポール、イスラエル、欧州、日本を中心に、スタートアップ企業が研究開発を進めています。生産コストの高さが課題であるものの、効率的な生産技術の開発が進んでおり、コスト低減が達成されれば市場のさらなる拡大が見込まれるでしょう。
企業概要
- 企業名:Morus株式会社
- 代表者:CEO 佐藤亮
- 設立:2021年4月
- 所在地: 〒141- 0022 東京都品川区東五反田 2-5-2 THE CASK GOTANDA 907
- 公式HP:https://morus.jp/jp
まとめ
本記事では、カイコをバイオ原料として量産・海外展開し、日本発の素材産業の創出を目指すMorus株式会社について紹介しました。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。
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