国土交通省の「国土交通白書2023」では、不動産業が「全産業の売上高の3.4%、法人数の12.8%(令和3年度)を占める重要な産業の1つ」とされています。しかし、業務の複雑さや法規制の厳しさなどから、DXの進展が遅れていると指摘されているのが実情です。
そんな中、商業用不動産業界が抱える、データ流通の課題をデジタル化により解決しようとするスタートアップがいます。それが「株式会社estie」(以下、estie)です。同社は、日本最大級の商業用不動産データ分析基盤「estieマーケット調査」を通じて、業界の取引をスムーズにし、不動産業界のDXを推進しています。
また、世界的なVCであるVertex Growthからの資金調達を受けるなど、注目を集めている企業です。今回は、estieの事業内容や将来の展望などについて解説していきます。
事業内容:不動産業界のDXを進めるべく複数のサービスを展開
estieは商業用不動産業界が抱えるデータ流通の課題を解決するため、業界の取引を円滑にする複数のデジタルサービスを開発しており、多くの不動産デベロッパー・機関投資家に提供しています。
たとえば、主力サービスである「estieマーケット調査」では、全国8万棟・40万フロアの建物情報や日々更新される募集情報、賃料情報、入居テナント情報を網羅。これにより、オフィスビルの売買・賃貸業務が円滑に進められます。
また「estie 物流リサーチ」では、全国の物流不動産データに瞬時にアクセスできるため、立地選定やテナント営業業務といった不動産実務から、融資やリース案件などのファイナンス業務まで幅広くサポート可能です。
他にも、不動産売買に必要な情報を提供してくれる「estie 所有者リサーチ」や、売買の進捗を簡単に管理できる「estie 案件管理」など、未公開のプロダクトを含めて10個もサービスを展開しています。
このように、estieの最大の強みは「相互運用が可能なサービスを同時提供している点」であり、不動産業界が抱える業務上の課題をまとめて解決することが可能です。
資金調達:2024年10月にシリーズBラウンドで28億円を調達
estieは2024年10月8日に、シリーズBラウンドでの第三者割当増資により、国内外の投資家5社から28億円を調達したと発表しました。
今回のラウンドには、世界的に著名かつ複数のユニコーン企業への投資実績をもつVertex Growthと、日本の政府系金融機関かつ不動産金融市場の牽引者である日本政策投資銀行(DBJ)が主要投資家として参加しました。
また、estieをシード・アーリー期から支える、グロービス・キャピタル・パートナーズ、東京大学エッジキャピタルパートナーズ、グローバル・ブレインといった既存投資家も本ラウンドに参加しました。
これまでの事業進捗と今後の展望
estieは、2022年1月のシリーズAで10億円を調達した後、積極的に人材を採用し、組織を強化。その結果、日本最大級のオフィスビル情報データ分析基盤「estie マーケット調査」に加え、物流不動産に特化した「estie 物流リサーチ」など、未公開のプロダクトを含めて合計10個のサービスを開発しました。
こうした事業拡大のため、大手不動産デベロッパーやJ-REIT(不動産投資信託)での採用率は70%以上に達したそう。
同社は、設立当初から膨大なデータの整備に尽力してきました。現在はオフィス領域で培ったナレッジを活用して、他のアセットへの展開や、不動産業者の課題解決に役立つ新たなサービスの開発に着手しており、今後はより注力していくとしています。
また、パーパスである「産業の真価を、さらに拓く」の実現に向けて、M&Aによる事業基盤の強化や新たな投資家であるVertexとの連携を通じて、グローバル展開の準備も進めるとのこと。
さらに、AI技術への投資を強化し、不動産業界のデジタル化を推進することで、業界のDXを加速させる計画です。
資金調達の目的
estieは、今回の資金調達を「M&Aの推進」「人材採用によるプロダクト拡張」「AI技術への投資」に活用する予定です。
まず、不動産業界の課題を一括で解決するデジタルインフラの構築を目指し、M&Aを進めます。特に、優れた技術を持つエンジニアや、「産業の真価を、さらに拓く。」というパーパスに共感する人材を積極的に採用するそう。また、金融機関からの借り入れを活用し、大型のM&Aにも対応する計画です。
次に、人材採用を強化して新しいプロダクトの開発を進め、不動産の多様なアセットや業務領域をカバーします。これにより、大手顧客のニーズに幅広く対応し、日本に約38万社ある不動産事業者へサービスを提供できる体制を構築するとのこと。
最後に、AI技術への投資により、賃貸・売買・都市開発に役立つ独自アルゴリズムの開発に挑戦するとしています。estieが培ってきたデータ・ソフトウェアにAI技術を掛け合わせることで、従来の手法では難しかった賃貸・売買取引の創出を目指していくと発表しています。
市場規模:BtoB領域の不動産テック市場は2030年に5180億円へ
矢野経済研究所によると、2022年度の不動産テック市場規模は前年度比21.1%増の9402億円と推定されています。BtoC向け市場は20.1%増の7138億円、BtoB向け市場は24.7%増の2264億円でした。
また、2030年度には不動産テック市場は2022年度の約2.5倍にあたる2兆3780億円に拡大すると予測されています。BtoC領域は約2.6倍の1兆8600億円まで成長する見込みで、住宅ストックや中古住宅流通の拡大が市場拡大に寄与するとのこと。
一方、BtoB領域は約2.3倍の5180億円に成長すると予測されており、DXが遅れている不動産業界のための電子化推進政策や、不動産仲介・管理、価格査定支援市場の拡大が主な成長要因になると考えられています。
企業概要
- 企業名:株式会社estie
- 代表者:代表取締役 平井 瑛
- 設立:2018年12月
- 所在地: 〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウン・イースト 4F
- 公式HP:https://www.estie.jp/
まとめ
本記事では、商業用不動産業界のDXを進めるべく複数のサービスを展開株式会社estieについて紹介しました。
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