今回紹介するMabGenesis株式会社(以下、MabGenesis)は、30年以上にわたる抗体研究を基盤に、ヒトとペット向けの画期的な医薬品を開発するバイオ医薬品企業です。
同社の革新的な技術は、製薬業界の常識を塗り替え、「副作用を最小限に抑えつつ高い治療効果を実現する」モノクローナル抗体医薬品の新しい可能性を切り開いています。特に、ペット市場における慢性疾患治療や人獣共通感染症の分野で注目を集め、国内外から期待される存在となりました。
本記事では、MabGenesisの技術力や事業展開、将来展望について掘り下げます。
事業内容:革新的なモノクローナル抗体医薬品を開発
MabGenesisは、30年以上にわたる国内アカデミアによる抗体研究をもとに、ヒトおよびペット向けの治療用モノクローナル抗体医薬品を開発するバイオ医薬品企業です。同社は、製薬業界における「first-in-class」(これまでにない革新性を持つ薬)や、「best-in-class」(既存の薬よりも優れた性能を持つ薬)の抗体医薬品の提供を目指しています。
モノクローナル抗体医薬品とは:特定の細胞をターゲットにした医薬品
モノクローナル抗体医薬品とは、特定の病気の原因となる細胞や分子だけをターゲットにして作用する「オーダーメイド型」の薬です。これにより、副作用を最小限に抑えながら、治療効果を最大限に引き出すことができます。たとえば、がん細胞だけを狙って攻撃する抗がん剤などがこれに該当します。
MabGenesisによると、抗体医薬市場は2020年で14兆円を超えると予測されており、また今後より高い有効性と安全性が期待される「完全ヒト抗体」が抗体医薬の主流となっています。
コア技術①:「MOURA library」世界最高品質の抗体ライブラリー
MabGenesisの主力技術の1つが、ファージディスプレイ抗体ライブラリー「MOURA library」です。これは、数千億もの種類の抗体候補を網羅的に集めた「データベース」のようなもので、これを活用することで特定の病気に最適な抗体を効率よく見つけ出すことができます。
この技術により、従来の方法では発見が難しかった、細胞膜上のタンパク質のわずかな違いにも反応する高品質な抗体を開発することが可能です。
コア技術②:「IMPACT」高効率モノクローナル抗体単離技術
もう1つの主力技術が、モノクローナル抗体単離技術「IMPACT」です。この技術は、抗体ライブラリーから特定のターゲットに最適な抗体を選び出す効率的な手法です。特に、4段階のスクリーニングプロセスを通じて、治療効果が高い抗体を迅速に見つけ出すことができます。
ペット用医薬品と人体用医薬品の両分野で活躍
MabGenesisは、以下の2つの分野での医薬品開発を行っています。
- ペット用抗体医薬品
- 高齢化が進むペット市場において、慢性疾患(自己免疫疾患、がん、内臓疾患、関節疾患など)治療のための抗体医薬品を開発しています。特に、犬や猫用の抗体ライブラリー(cMOURA、fMOURA)を世界最大規模で構築し、新薬開発の可能性を広げています。
- 人体用抗体医薬品
- がんや人獣共通感染症など、アンメットメディカルニーズ(未だに有効な治療法が存在しない疾患)の高い分野に注力。これまでに、市販されている抗体を上回る効果を持つ抗体や、世界初の技術を用いた革新的な医薬品の開発に成功しています。
MabGenesisは、革新的な抗体技術を活用し、ヒトおよび動物医療分野における課題解決に取り組んでいます。同社の技術は、製薬業界だけでなく、グローバルな医療分野全体においても大きなインパクトを与える可能性を秘めています。
資金調達:2024年12月に4億7000万円を調達し新たな成長へ
MabGenesisは、2024年12月24日、直近のラウンドで以下の投資家から4億7000万円を調達したことを発表しました。
【今回の資金調達の引受先】
- アクシル・ライフサイエンス&ヘルスケアファンド2号投資事業有限責任組合
- アクシル・キャピタル・パートナーズ2号有限責任事業組合が運営
- 九州広域復興支援投資事業有限責任組合
- REVICキャピタル株式会社、ロングブラックパートナーズ株式会社が運営
- みやざき未来応援3号ファンド投資事業有限責任組合
- 株式会社宮崎太陽キャピタルが運営
これにより、同社の累積調達額は10億円を超えました。今回のラウンドは、MabGenesisにとって4回目の資金調達であり、2022年12月のラウンドに続くものです。
資金調達の背景:ペットの高齢化や健康管理への関心の高まり
近年、ペットの高齢化や健康管理への関心が高まり、慢性疾患治療用抗体医薬品へのニーズが急速に増加しています。このような市場の成長に対応するため、MabGenesisは技術基盤を活用し、グローバルパートナーとの共同研究を進めながら、市場での地位を強化しようとしています。
資金調達の目的:研究開発の強化
こうした市場動向に対応するため、MabGenesisは今回の資金調達を通じて、研究開発を一層強化する方針です。
- 共同研究の推進:グローバルパートナー企業との共同研究を強化し、革新的な抗体医薬品の開発を加速します。
- 自社研究の拡充:高齢化に伴い世界的に需要が増加しているペット(犬・猫)専用の慢性疾患治療用抗体医薬品の研究開発パイプラインを拡大します。対象となる疾患は、自己免疫疾患、がん、内臓疾患、関節疾患など多岐にわたります。
- 市場拡大に向けた基盤強化:研究開発の成果を製品化し、市場での競争力を高めるための基盤を整備します。
MabGenesisの今回の資金調達は、同社の研究開発体制をさらに強化するだけでなく、急速に成長するペット医療市場への対応力を高める重要なステップとなるでしょう。同社の次なる動向に注目が集まります。
市場規模:ペットモノクローナル抗体市場は2030年に24億2000万ドル規模へ
調査企業グローバルインフォメーションによると、動物医薬品におけるペットモノクローナル抗体市場は、2030年までに24億2000万米ドルに達すると予測されています。2023年から2030年にかけて、年平均成長率(CAGR)17.1%で拡大する見込みです。この成長を支える要因として、ペットの人口増加やペット関連支出の拡大が挙げられます。
成長要因①:ペット人口と支出の増加
ペットモノクローナル抗体市場の大きな成長要因として、ペットの飼育が一般化し、ペットオーナーによる健康管理や治療への支出が拡大しています。特にアメリカでは、2022年にペット関連の支出が359億米ドルに達しました。
また、この支出の増加は、ペットを「家族の一員」と捉える意識の高まりも後押ししているとのこと。こうした傾向が、ペット向けの医薬品や高度な治療法への需要を高め、市場拡大を後押ししています。
成長要因②:犬のアトピー性皮膚炎の拡大
犬の皮膚アレルギーの中で最も一般的とされるアトピー性皮膚炎(AD)は、市場を押し上げる重要な要因です。この疾患は、慢性的なかゆみや炎症を伴い、犬の生活の質に大きな影響を与えます。研究では、犬のAD発症率が50%を超えるとされ、特にペットフードに含まれる成分や都市部での環境要因が疾患の発症率を高めていると指摘されています。
こうした発症率の増加により、従来の治療法では効果が不十分なケースが増加しています。その結果、症状を特定の原因に絞って対応できるモノクローナル抗体のようなターゲット型治療法への需要が一層高まっているのです。
地域別動向:北米が市場をリード
2022年、北米は約40%の市場シェアを占め、引き続き主要市場としての地位を維持する見込みです。この地域では、ペット所有率の高さや動物医療への多額の投資が市場成長を支えています。
一方、アジア太平洋地域ではペット所有率の増加に加え、高度な医療サービスへの需要が拡大しており、予測期間中に急成長を遂げるとされています。
将来展望:新しい治療法としてモノクローナル抗体が拡大
モノクローナル抗体は、特定の病気をターゲットに作用する人工的なタンパク質で、副作用を抑えながら高い治療効果を発揮することが特徴です。感染症や免疫疾患、がん治療など幅広い分野での活用が期待されており、ペットの慢性疾患治療における新たなスタンダードとなる可能性があります。
ペットモノクローナル抗体市場は、ペットオーナーの意識変化や慢性疾患への対処法の進化によって今後も拡大が見込まれます。この成長は、動物医薬品市場全体に波及効果をもたらし、業界全体を牽引する重要な役割を果たすでしょう。
企業概要
- 企業名:MabGenesis 株式会社
- 代表者:代表取締役 新庄 勝浩
- 設立:2019年6月3日
- 所在地: 〒222-0033 神奈川県横浜市港北区新横浜3丁目7-18日総第18ビル
- 公式HP:https://mabgenesis.com/
まとめ
本記事では、ヒトおよびペット向けの治療用モノクローナル抗体医薬品を開発するMabGenesis 株式会社について紹介しました。
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