航空機が突如として激しい揺れに見舞われる乱気流は、パイロットや乗客にとって予測困難な脅威の1つです。近年では気象データの活用が進んでいるものの、正確な事前予測は難しく、多くの航空会社が対応策を模索しています。
そんな中、BlueWX株式会社(以下、BlueWX)が開発するAIを活用した乱気流予測モデルが注目を集めています。同社は、2023年にANAホールディングスと慶應義塾大学の共同研究から生まれ、独自の技術で従来よりも高精度な乱気流予測を可能にしました。
2025年1月にはシリーズAで1.2億円の資金調達を達成し、さらなる技術開発と市場展開を加速。将来的にはドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などへの応用も視野に入れています。
本記事では、BlueWXの成長戦略や最新技術、そして航空業界にもたらす影響について詳しく解説します。
事業内容:深層学習を活用した乱気流予測モデルを開発
BlueWXは、航空業界の安全性向上と環境負荷の低減を目指し、最先端の気象予測技術を提供するスタートアップです。
2023年7月にANAホールディングスと慶應義塾大学の共同研究から生まれた同社は、AI技術の1つである深層学習(ディープラーニング)を活用し、航空機が飛行中に遭遇する揺れ(乱気流)を事前に予測するシステムを開発しています。
この技術の鍵となるのは、ANAが10年間にわたり収集した飛行データと気象情報です。これらのデータをAIに学習させることで、従来の方法では予測が難しかった乱気流を約2.7倍の精度で捉えることが可能になりました。
その結果、パイロットは事前に迂回ルートを選択したり、適切な高度を維持することで、安全性の向上や乗客の快適性が大きく改善されます。また、正確な乱気流予測により、航空機が無駄な高度変更や迂回を減らせるため、燃料消費を抑え、CO2排出量の削減にも貢献します。
現在、BlueWXはこの乱気流予測モデルをグローバル市場に展開し、さらなる運航効率化と環境負荷低減を実現する技術へと進化させる計画です。将来的には、ドローンや次世代の電動航空機(eVTOL)にも応用し、安全な空の移動を支える基盤づくりを目指しています
資金調達:2025年1月にシリーズAにて1.2億円を調達
BlueWXは、2025年1月27日にシリーズAラウンドで総額1.2億円を調達しました。本ラウンドでは、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社、ANAホールディングス株式会社、グローバル・ブレイン株式会社が共同で設立したAH-GB未来創造投資事業有限責任組合、さらに株式会社慶應イノベーション・イニシアティブなどが出資を行っています。
この資金調達により、同社はAIを活用した高精度な乱気流予測システムの開発をさらに加速させる方針です。また、事業拡大に伴う人材採用や、航空業界における運航の効率化・安全性向上を目的とした研究開発を推進し、グローバル展開を本格化させるとしています。
調達資金の活用と今後の展開
今回の資金調達により、BlueWXはさらなる技術開発と市場拡大に注力します。具体的には、以下の3つの分野で活用される予定です。
- 予測モデルの高度化:AI技術を強化し、より広範な気象パターンを解析可能にすることで、予測精度を向上
- 人材採用の強化:AI・気象学の専門家を増員し、研究開発のスピードを加速
- グローバル市場への展開:まずは航空業界向けに乱気流予測システムを世界各地へ展開。将来的にはドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)の運航最適化にも活用する計画
BlueWXの技術は、航空業界にとどまらず、さまざまな分野での応用が期待されています。今後の展開に注目が集まる中、同社の取り組みは、航空業界の安全性向上とカーボンニュートラル達成に向けた重要な一歩となるでしょう。
市場トレンド:気象データ活用サービス市場は拡大傾向に
矢野経済研究所によると、2022年度の気象データ活用サービス市場は、前年比6.8%増の453億円に達しました。市場は緩やかな拡大を続けており、2023年度は484億3,000万円(前年比6.9%増)、2024年度には518億4,000万円(同7.0%増)に成長すると予測されています。
この成長の背景として挙げられるのは、自然災害の激甚化による防災・減災ニーズの高まり、企業のリスク回避やビジネス機会の最適化を目的とした気象データ活用の拡大です。特に、気象データを活用した需要予測は、小売・製造・農業・観光など幅広い業界で注目されています。
たとえば、小売業では気象条件に応じた販売計画の最適化、農業では適切な栽培管理による収穫量向上、観光業では天候に応じた価格設定の調整などが実践されています。
今後、気象データの高度な分析技術が進展することで、より精緻な予測が可能になり、企業の意思決定や業務改善への貢献度がさらに高まるでしょう。特に、AIやIoTとの連携が進むことで、リアルタイムの需要予測や供給調整が精度高く実現され、市場の成長をさらに後押しすると見られます。
創業者:代表取締役 宮本 佳明
慶應義塾大学理工学部機械工学科を卒業後、京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻にて博士課程を修了。博士(理学)の学位を取得。
日本学術振興会特別研究員(DC1)として研究活動に従事したのち、University of OklahomaおよびNational Center for Atmospheric Researchの訪問研究員を経験。その後、理化学研究所にて特別研究員・基礎科学特別研究員を務め、日本学術振興会海外特別研究員としてUniversity of Miamiで研究を続けました。帰国後は慶應義塾大学環境情報学部の専任講師(有期)を経て、現在は同学部の准教授を担当。
研究分野は、台風や積乱雲などの気象現象の解明をはじめ、スーパーコンピュータを活用した大規模な数値シミュレーション、理論的な気象学の基礎研究に精通。近年では、航空気象に関する研究にも注力しており、乱気流をはじめとする航空機運航に影響を及ぼす気象現象の解明にも取り組んでいます。
企業概要
- 企業名:BlueWX株式会社
- 代表者:代表取締役 宮本 佳明
- 設立:2023年7月31日
- 所在地:東京都港区
- 事業内容:
- 気象解析・予報及びその提供
- 解析・予報を活用した対応策のコンテンツ企画、制作、販売
- 公式HP:https://www.bluewx.co.jp/
まとめ
本記事では、深層学習を活用した乱気流予測モデルを開発するBlueWX株式会社について紹介しました。
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