最終更新日 25/04/17
注目企業海外スタートアップ

Googleがついに過去最大買収、世界が注目するクラウドセキュリティ企業Wizとは?

システム開発セキュリティ
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(引用:ビジネス+IT

クラウドの普及に伴い、新たなセキュリティ課題が顕在化しています。例えばクラウド設定ミスはデータ流出など事故の主要因となっており、ある調査ではクラウド侵害の約3割が設定ミスや人的ミスに起因するとも報告されました。

こうした背景からクラウドセキュリティの包括的な対策が求められており、その解決策として登場したのがクラウドセキュリティ企業Wiz(ウィズ)が提供する「Cloud Native Application Protection Platform (CNAPP)」という新しいアプローチです。

Wizはイスラエル出身のメンバーにより2020年に創業されたクラウドセキュリティ企業で、このCNAPP分野で急速に頭角を現しています。すでにFortune 100企業(フォーチュン誌が年に1回発表 する、アメリカの上位100社)の50%以上がWizを導入しているとも言われ、その革新的なサービスはビジネス界から大きな注目を集めている状況です。

本記事では、Wizの事業内容、サービスの特長、市場規模など幅広く紹介します。

事業内容:統合管理でクラウド全体のリスクを一括監視するWiz CNAPPサービス

(引用:Wiz公式)

Wizの提供するCNAPPサービスは、クラウド上で稼働するあらゆるリソースを統合的に保護するプラットフォームです。Wizのプラットフォームを導入することで、企業はクラウド環境全体の状態を可視化し、設定ミスや脆弱性から機密データの扱い状況に至るまで、クラウド上のリスクを一括監視・検知できます。

従来、クラウドセキュリティ対策は目的別に分断されたツール(例えば設定管理ツール、脆弱性スキャナー、権限管理ツール等)を組み合わせる必要がありました。しかし、Wizはそれら機能を単一のプラットフォーム上で提供することで、統合的で一貫性のあるクラウドセキュリティ管理を実現しています。

Wizが解決する課題と社会的意義

近年のクラウド利用拡大に伴い、企業は以下のような課題に直面します。

  • 可視性の欠如
    マルチクラウド環境で各リソースの状況を把握することが難しく、企業・組織側が把握できていないシャドーITや設定不備が見逃されがちである。
  • セキュリティ対策の断片化
    脆弱性スキャン、設定のベストプラクティス検証、権限管理などが別々の製品になっており、統合的に運用が困難である。
  • インシデント検知の遅れ
    クラウド全体を継続監視できず、不審な挙動の早期発見や対応が遅れる可能性がある。
  • 運用負荷の増大
    環境ごとに異なるセキュリティツールを扱う必要があり、セキュリティ担当者などへの負担が大きい。

Wizはこれらの課題に対し、「エージェントレス」かつ「グラフベース」という独自アプローチで解決に挑んでいます。

(引用:Wiz公式)

クラウド環境に専用ソフト(エージェント)をインストールすることなく、各クラウドサービスにAPI連携するだけで、IaaSからPaaS、コンテナ、サーバーレスまであらゆるリソースを監視・検査することが可能です。さらにWizのプラットフォーム上では、収集した情報をグラフ(関連図)として可視化し、リソース間の関係性や潜在的な攻撃経路を分析します。このため、複数の脅威イベントが発生してもバラバラに扱われることなく、一連の攻撃シナリオとして関連付けて把握できる点が大きな特徴です。結果として、セキュリティ担当者は真に重要なリスクに優先的に対処でき、誤検知や警告ノイズに惑わされにくくなります。

例えばWizのシステムでは、クラウド内の機密データ(例:クレジットカード情報や個人情報)の所在や扱われ方、ストレージやデータベースの設定ミス、外部からの不正アクセスの試行、悪意あるマルウェアの侵入など、様々な脅威イベントを24時間365日体制で監視することが可能です。そして、異常を検知すれば即座にアラートを発しつつ、それら複数のイベントが関連する場合は一括して表示・対処できるようになります。なおWizはプライバシーにも配慮し、監視対象データそのものは保存せずにメタデータ(「どのデータがどこにあるか」といった情報)のみを記録する方式を採っており、これはクラウド上の大量データを扱う上で効率と安全性を両立する工夫といえます。

WizのCNAPPサービスの独自性とメリット

(引用:東京エレクトロンデバイス株式会社)

Wizが提供するCNAPPプラットフォームには、主要なクラウドセキュリティ機能が包括的に統合されています。

具体的な機能は以下の通りです。

  • CSPM(Cloud Security Posture Management)
    クラウド設定の継続的な監査・ベストプラクティス遵守状況のチェック。
  • CIEM(Cloud Infrastructure Entitlement Management)
    クラウド資源に対するアクセス権限の適切性管理(過剰権限の検出等)。
  • CWPP(Cloud Workload Protection Platform)
    VMやコンテナなどクラウド上のワークロードに対する脆弱性診断・マルウェア検知。
  • DSPM(Data Security Posture Management)
    クラウド上に保存されたデータに特化したセキュリティ(機密データの検出や暗号化状況確認)。
  • CDR(Cloud Detection and Response)
    クラウド上の脅威検知とレスポンス(侵入経路の追跡、インシデント対応支援)。

これらを単一のプラットフォームで提供することで、部門横断的なクラウド環境の可視化セキュリティ運用の効率化を実現しています。導入企業はWizを使うことで、今までは個別に対処していたクラウド上の様々なリスクを一括して管理でき、セキュリティ対策の抜け漏れ防止や運用コスト削減につなげることが可能です。また、エージェントレスであるため初期導入が容易で、既存環境にも短期間で展開できます。Wiz社自身も「クラウドセキュリティの運用モデルを変革し、開発者とセキュリティチームのコラボレーションを可能にする」ことを掲げており、従来は対立しがちだった開発スピードとセキュリティ強化の両立に寄与する点も社会的な意義と言えるでしょう。

資金調達:創業からわずか4年で累計調達額は19億ドル

(引用:Wiz Blog)

Wizは創業以来、驚異的なスピードで事業と評価額を伸ばしています。2020年12月にシリーズAで1億ドルを調達したのを皮切りに、直近のシリーズEとなる2024年5月7日発表のラウンドでは一挙に10億ドル(約1300億円)を調達して企業評価額は120億ドルに急騰しました。このシリーズEはアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)やLightspeed、Thriveなど複数のトップVCが主導し、GreylockやSalesforce Ventures、Sequoia Capitalなど既存投資家も参加しています。創業からわずか4年で累計調達額は19億ドルにも達し、サイバーセキュリティ業界でも屈指のユニコーン企業となっている状況です。

この巨額資金調達の背景には、Wizのサービスに対する市場の期待と同社の実績があります。Wizは2021年2月に年間経常収益(ARR)100万ドルに到達してから約1年半後の2022年7月にはARR1億ドルに達したとされ、これはスタートアップ史上最速ペースとも言われます。上図はWizが他の著名クラウド企業と比べていかに短期間でARR1億ドルを突破したかを示したグラフです。その急成長ぶりが投資家を惹きつけたことは想像に難くありません。

最新ラウンド後の動向:Google史上最大の買収が成立へ

(引用:notesbyk

Wizは2024年7月頃に一度、親会社Alphabet(Google)から約230億ドルでの買収提案を受けましたが、独立路線(IPO準備)を優先するため当時はこのオファーを拒否する選択をしました。

しかし、その後も業績を伸ばし続けるWizに対しGoogleの関心は衰えず、2025年3月18日、AlphabetはWizを約320億ドル(約4.7兆円)で買収することで合意発表を行いました。この買収額はGoogle史上最大の案件であり、イスラエル発のスタートアップとしても過去最大の金額となる見込みです。規制当局の承認が前提ですが、取引完了は2026年が予定されています。

Googleによる買収発表は、Wizのクラウドセキュリティ技術がそれだけ戦略的価値を持つことの証と言えます。買収後もWizの製品は他クラウド(AWSやAzure等)向けにも引き続き提供される予定で、特定プラットフォームに閉じない中立性は維持される見通しです。Wiz側も「Google Cloudの一員になることでイノベーションのスピードがさらに加速する」とコメントしており、今後のサービス拡充に期待が高まっています。

市場規模:クラウドセキュリティ世界市場は2032年までに約 1,483 億米ドル規模へ

(引用:market.us

クラウドセキュリティ市場は、WizのようなCNAPP企業が活躍する土壌として今後ますます拡大が予想されています。世界のクラウドセキュリティ市場は現在数十億ドル規模で成長を続けています。2025年時点の市場規模は約386億米ドルと推計されており、2032年の間に年平均22.5%という驚異的な成長率が見込まれます。ある予測によると2032年には約 1,483 億米ドル規模に達するとの試算もあり、この分野は今後数年で現在の3倍以上に拡大するポテンシャルを持っています。

一方、日本国内のクラウドセキュリティ市場も徐々に存在感を増しています。国内全体の情報セキュリティ市場規模は2024年に初めて1兆円を突破し、2027年には約1.25兆円に達する見込みです。その中で、ゼロトラストやクラウド利用増加に伴うセキュリティ需要の高まりが指摘されており、クラウド分野のセキュリティサービスは市場成長の牽引役の一つとなっています。実際、クラウドの導入率が上がるにつれて企業の脅威リスクも増大しており、Wizのようなクラウドネイティブなセキュリティソリューションへの期待は大きいと言えるでしょう。

現在、WizはCNAPP市場のリーダー的存在として認識されています。2024年時点でFortune 100企業の半数が顧客であることからも分かるように、大企業を中心にクラウドセキュリティ対策のデファクトスタンダードになりつつある状況です。また、同社は市場全体の動向を先導する形で、新たなクラウド脅威を発見・公表する活動も積極的に行っています。今後クラウドセキュリティ市場が拡大する中で、Wizのような革新的企業がどのように進化しシェアを拡大していくのか注目が集まっています。

会社概要

  • 会社名:Wiz, Inc.
  • 所在地:米国ニューヨーク市(イスラエル・テルアビブに開発拠点)
  • 設立:2020年1月
  • 代表者:Assaf Rappaport(アサフ・ラパポート)
  • 公式HPhttps://www.wiz.io

まとめ

本記事では、クラウドセキュリティ領域で急成長を遂げるスタートアップ Wiz を紹介しました。

Wizは企業が直面するクラウド時代のセキュリティ課題に対し、統合プラットフォームによる革新的な解決策を提供しています。創業からわずかな期間で巨額の資金調達と高い企業評価額を獲得し、Googleによる過去最大級の買収提案を引き出すなど、その存在感は群を抜いています。クラウドセキュリティ市場自体も今後大きな伸びが予想される中、Wizのようなリーディングカンパニーが果たす役割はますます重要になるでしょう。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

Wizのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、ぜひ関連記事もご覧ください。

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