最終更新日 24/12/12
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Sakana AIが発表した「CycleQD」とは? AI開発に新しい視点をもたらす革新技術

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近年、AIの進化は目覚ましいものがありますが、Sakana AIはその最前線で新たな技術「CycleQD」を発表しました。この技術は、生物界の「すみ分け(ニッチ)」という仕組みをヒントに、複数の小規模なAIモデルを育成し、それぞれが得意分野をもとに協力し合うことで複雑な問題を解決するアプローチです。

この記事では、CycleQDの概念から、その仕組みや私たちの生活への影響までをわかりやすく解説します。


「CycleQD」の概要

(引用:Sakana AI公式HP)

「CycleQD」は、さまざまな役割を持つ小さなAIモデル(エージェント)を育成し、それらを組み合わせることで、大きな課題に対応する技術です。

各モデルは得意分野を持ち、たとえば「データ処理に強いモデル」や「画像認識が得意なモデル」といった形で進化します。そして、それぞれが特定の能力を活かし、互いに補完し合いながら全体として進化していくAIエージェントの集団を生み出すのがCycleQDの仕組みです。

従来のAI開発では、大規模で万能なモデルを作ることが主流でした。しかし、それには膨大な計算リソースとコストが必要です。そこで、OpenAI単一の大規模モデルですべてのタスクをこなすのではなく、それぞれが特化した能力を持つ小規模で「ニッチ」なモデル群を進化させていく「CycleQD」という手法により、この課題を解決しようとしています。


CycleQDのコンセプト①「すみ分け(ニッチ)」の考え方とは?

CycleQDは、生物の「すみ分け(ニッチ)」に着想を得ています。「すみ分け(ニッチ)」とは、生物が環境内で特定の役割を担い、競争を避けながら共存する仕組みのことです。

例として、動物の世界では、ある鳥が特定の虫だけを食べることで、他の動物と競争せずに生きていくことが可能になります。このように、それぞれが「自分の得意分野」を活かすことが、生態系での生存に繋がっているわけです。

そこでAIにおいても、それぞれの小さなモデルが「得意分野」を持つことで、効率よくタスクを分担できる仕組みを作り出します。これがCycleQDの核となる考え方です。


CycleQDのコンセプト②「Quality Diversity」とは?

CycleQDの仕組みを理解する上でもう一つの大事な鍵は、「Quality Diversity(QD)」という考え方です。これは、単に一つの最良の答えを探すのではなく、さまざまな特徴を持つ良い解決策を集めるというアプローチです。

イメージとしては、「最高のリンゴ」だけを探すのではなく、「甘いリンゴ」「大きいリンゴ」「珍しい形のリンゴ」といった多様なリンゴを収集することを目指します。それぞれのリンゴには異なる良さがあり、状況に応じて最適なリンゴが異なるのです。

「Quality Diversity」の仕組み

(引用:Sakana AI公式HP)

「さまざまなリンゴ」を集めたボックスを想像してください。

このボックスは格子状に区切られており、各格子はリンゴの特徴(たとえば色や大きさ)を表しています。QDの世界では、これらの特徴を「行動特性(Behavior Characteristics, BCs)」と言います。

コレクションの目標は、各格子に最適なリンゴを配置することです。「最適」とは、たとえばリンゴの大きさや甘さ、色の均一性など、ユーザーが設定した基準を満たしている度合いを指します。QDではこの度合いを「品質(Quality)」と呼び、リンゴ1つ1つの良さを引き出しながら、多様な特徴を持つコレクションを作ることを目指します。

具体的には、進化アルゴリズムを活用して、次のようにリンゴを集めます。

  1. コレクションから2つの「親」となるリンゴを選び出します。
  2. 魔法の力(進化アルゴリズムでは「交叉」や「突然変異」と呼ばれる操作)を使って新しいリンゴを生成します。
  3. 生まれた新しいリンゴの特徴を評価し、コレクションボックスのどの格子に属するかを判断します。
  4. その格子に既にあるリンゴよりも品質が優れている場合、新しいリンゴがその格子を代表するリンゴとして置き換えられます。

このようにして、リンゴが多様性を持ちながら収集され、それぞれの格子が最適なリンゴで埋まっていきます。この仕組みはAIモデルにも応用可能で、多様でバランスの取れたエージェント群を作る基礎として、CycleQDに応用されています。


CycleQDの具体的な仕組み

(引用:Sakana AI公式HP)

CycleQDでは、個々に最適な特性を持ったさまざまなモデルを育成するQDの考え方を取り入れており、具体的には以下の技術を基盤としています。

周期的に切り替わる品質と行動特徴

CycleQDは、最大の特徴として、焦点を変えながら各スキルを周期的に最適化する手法を採用しています。具体的には、新しいLLMを生成する際、1つのスキルを品質(Quality)として選び、そのスキルの向上に焦点を当てます。一方、他のスキルは行動特性(BC)として扱われ、多様性の維持に貢献します。

たとえば、教育を例に挙げると、数学→スポーツ→文学といった順で焦点を切り替えることで、全体のバランスを保ちながら多様なスキルを育てます。このアプローチにより、特定のスキルだけが突出せず、全体として調和の取れたAIモデルの成長が可能になります。

モデルマージによる交叉

CycleQDでは、異なるモデルを組み合わせる「モデルマージ」技術を用いて新しいモデルを生成します。この方法は、遺伝的アルゴリズムの「交叉」に相当し、コスト効率が高く、短時間で複数のスキルをバランスよく組み合わせたモデルを生成させることが可能です。

SVDベースの突然変異

モデルにランダムな調整を加える代わりに、CycleQDでは「特異値分解(Singular Value Decomposition, SVD)」を利用して、突然変異を起こしています。この手法により、モデルを基礎的な構成要素(サブスキル)に分解し、新たな可能性を探索できるようになります。これにより、過学習を防ぎつつ新しいスキルの発見を促進します。


実験結果と応用例

(引用:Sakana AI公式HP)

CycleQDをプログラミングやデータベース操作などの分野で試したところ、従来の方法を超える性能が得られました。たとえば、以下の通りです。

  • スキルの総合的な最適化: 個別に特化したモデルが、互いに協力することで全体の効率を大幅に向上。
  • 持続可能な開発: リソース効率の良い小規模モデルの活用により、計算コストを削減しながら高性能を実現。

将来展望:生涯学習とマルチエージェントシステム

(引用:Sakana AI公式HP)

「生涯学習」は、AIが成長し続け、新しい環境や課題に柔軟に対応する能力を持つために重要なテーマです。CycleQDは、この生涯学習を実現するための重要なステップといえます。多様なスキルを持つエージェントを育成することで、AIがより広範なタスクに対応できる可能性が高まるでしょう。

もう一つの注目すべき展望は、マルチエージェントシステムの発展です。CycleQDによって作られた多様なエージェントは、それぞれが得意なスキルを活かしながら協力や競争を行うことで、新しい可能性を広げます。これにより、科学的発見や複雑な問題解決といった難しい課題への対応が実現されるかもしれません。

まとめ

Sakana AIの「CycleQD」は、AI開発の新しい可能性を切り開く技術です。小さなモデルを活用し、それぞれの得意分野を活かしながら協力するアプローチは、効率的かつ持続可能なAIの未来を築くかもしれません。

Sakana AIについてわかりやすく解説している記事もあるので、気になる方はぜひご覧ください。

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